2011年12月21日水曜日

暗闇ごはん

自分が関わっているTEDxKids@Tokyoの仲間たちと、「暗闇ごはん」を体験してきました。

これは、視覚を奪うという通常は体験することのない状態で食事を取ることから食について改めて考え直す、という企画です。TEDxKids@Tokyoメンバーの1人であり、浅草にある緑泉寺の住職をされている青江覚峰さんが行っています。

http://www.higan.net/kurayami/

当日はTEDxTokyo yzのメンバーも加わり総勢15名程度の賑やかな催しとなりました。

食事は、アイマスクをした上で席に着き、一品ずつ料理を味わっていきました。触覚に頼ってお膳から食べ物を口に運ぶことの難しさや、目が見えないと食材がなかなかわからない自分の味覚の未熟さを痛感するとともに、興味深かったのは周囲の人とのコミュニケーションがいつも以上に密になっていたことでした。会場に入る前に目が見えない状態になるので、隣や前の席に誰がいるのかは会話で確認するしかありません。また、どんな料理が出て来るのかわからない、そして自分の味覚だけでは食材が判別できないものがある、という状況の中では、コミュニケーションを通して「今食べているものは何なのか」をともに推量するという安心感や、好奇心の充足につながったのだと思います。

詳細は記しませんが、いただいた料理はどれも手間と心がこもった素晴らしいものでした。食事後に明かりをつけて一品ずつ解説をしていただきましたが、食材の選択から調理法まで、それぞれに込められた思いを伺いながら、食べるということ、人と人や人と自然のつながり、そしておもてなしの心遣いといったことに、改めて思いを馳せました。

2011年10月13日木曜日

[読書ノート]「いま、地方で生きるということ」

西村佳哲さんの新刊「いま、地方で生きるということ」を読み終わりました。ちょうど自分が北海道の旅行から帰って来たところで地方での暮らしについていろいろと感じることがあった時期でもあり、とても響いてくることがある本でした。

いま、地方で生きるということ
いま、地方で生きるということ西村佳哲

ミシマ社 2011-08-11
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この本は、震災の後に、働く場所や生きる場所について著者が思いを巡らしながら東北と九州を巡り、知人やそのまた先のつながりの人へインタビューを重ねた記録です。登場する人たちの言葉を読みながら強く感じたのは、彼らが皆、しっかりとその地に腰を下ろしながら、それでいて必要とあれば軽やかに他の場所で動くこともできる人だなということでした。

根を張りながら、一方で自ら綿毛になることもできるような生き方。地方に暮らすからといって、必ずしも生活が単調で退屈になる訳ではないし、慣習や近所づきあいに縛られ窮屈な思いをする必要もない。内向きな姿勢を取っ払い、地元を見つめながらも外に対してオープンな姿勢でいることができれば、互いに顔が見えやすい関係や手頃な街のサイズ、自然との距離の近さといった要素が都会には無い強みになるのかもしれない。そんな暮らし、いいかもしれないな。この本を読んで、そんなことを感じました。

2011年10月1日土曜日

TEDxKids@Tokyoいよいよ開催です。

自分も関わってきたTEDxKids@Tokyo,いよいよ本日(10/1)9:00~13:00の開催です!
ライブストリーミングもあります。是非ご覧下さい!

http://tedxkidstokyo.com/

2011年8月29日月曜日

[読書ノート]「梅原デザインはまっすぐだ!」

羽鳥書店が出版した、2010年7月に行われた梅原真さんと原研哉さんの対談を書籍化した文庫です。

梅原デザインはまっすぐだ! (はとり文庫 1)
梅原デザインはまっすぐだ! (はとり文庫 1)梅原 真 原 研哉

羽鳥書店 2011-07-04
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表紙に「ニッポンの風景をつくりなおせ」副読本とあるように、梅原さんのデザインした作品を紹介する「ニッポンの~」を読んでからでないと、この本は十分に楽しめないかなぁという気がします。そういう意味で、広く一般を狙った本ではないのかもしれません。また、装丁が上品で手に取った感じも良いのですが、内容は1時間程度で読める130ページほどのもの。それにしては値段がちょっと高めだなぁという感は否めませんでした。

とはいえ、梅原さんのデザインが好きで、普段メディアにほとんど登場しない梅原さんの言葉をもっと聞きたい・読みたいという人にとって興味深い本であることには間違いありません。「ニッポンの風景をつくりなおせ」に出てきた作品を元に、原さんがデザインの裏にある思考や流儀に迫っていく様を自分はとても面白く読みました。

原研哉さんの著作「デザインのデザイン」 などを以前夢中になって読んだことがありますが、やはり感覚がとても鋭い方だと改めて感じました。デザイナーというのはスタイリングを作るというよりも「構想」を提案する職業だ、という原さんの言葉に、そういう意識を持っているからこそ作品にメッセージや物語が込められていくのだろうと、深く頷きました。



2011年8月15日月曜日

奥多摩の渓谷にて

奥多摩に行ってきました。川遊びをするのが目的です。随分と前、学生の頃に羽村で有機米を作るという活動に多少関わっていたことがあるのですが、それよりも先に行くのは初めて。

休日だったので、青梅から先に行く電車にはたくさんの人が乗っていました。主に登山客が多かったように見えましたが、僕たちが目指したのは川です。海やプールとはまた違うところで子どもと水遊びを しようというのが目的でした。



御嶽渓谷は、こんな感じのところでした。このあたりでは多摩川も勢いよく流れ、カヤックやラフティングを楽しむ人たちが多く下って来ます。ただ、うちの場合はそんな激流で遊ぶことはできないので、岩や蛇行の関係で河原付近の流れが穏やかになっているところを探し、そこで水遊びとなりました。

水温は思ったよりかなり冷たかったです。膝ぐらいまで浸かる分には気持ちよいですが、ラッシュガードを着ていてもずっと体を水につけていると冷えてしまうぐらい。子どもも、しばし水で遊んでは河原に戻って体を温める、というぐらいのペースがちょうどよかった様子。水辺では土手の上よりも涼しくて、蚊などもおらず、ご飯を食べるにも水遊びをするにも非常に快適でした。タープかテントがあれば最高でしょう。勢いよく流れる川の音を聴きながら、「やっぱり水辺はいいな」と心地よく過ごした1日でした。


2011年7月5日火曜日

カミール・シーマン「心に焼きつく氷山の写真」(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「カミール・シーマン「心に焼きつく氷山の写真」(Camille Seaman: Haunting photos of polar ice)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。

カミール・シーマン「心に焼きつく氷山の写真」(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「カミール・シーマン「心に焼きつく氷山の写真」(Camille Seaman: Haunting photos of polar ice)」


[TED2011, 4分11秒]

話者のカミール・シーマンは写真家で、2011年のTEDフェローでもある人です。このトークに出て来るような氷山や、極地のペンギン、空を覆う巨大な雲など、自然をテーマにした写真を多く撮っています。初めてこのトークを見た時、寒々しい背景の中に凛とした美しさを感じさせる氷山の写真に、はっと目を惹かれました。また、「氷山の写真を撮るのは祖先のポートレートを撮るようなものだ」とする彼女の自然観も強く印象に残りました。TED Blogでのインタビュー(こちら)で、彼女は全てのものはつながっているという考え方は祖父に教わったものだと述べています。その通り、根っこの方で自然としっかり結びついている人だなということが、写真からも話の内容からも伝わってきました。特に、最後に出て来る「回転する氷山」の映像は圧巻です。

<関連サイト>
カミール・シーマンの公式サイト:
http://www.camilleseaman.com/

2011年6月26日日曜日

子どもの遊びと自発性

昼間、子どもとプレーパークに行ってきました。しばらく好きなように遊んだ後、穴掘りがしたいというので、シャベルを借りて来ることにしました。ここでは、園芸とか畑仕事とかで使うような、長さ70~80cmぐらいある本格的なシャベルを使うことができます。それが子どもにとっては楽しいようで、来るときはよく穴掘りをしています。

今日は少し時間に余裕があったので、ただ土を掘り返すのではなく、緩やかな斜面に沿って小さな川を作り、最終目的地(少し深く掘ったダム)まで水を流してみることにしました。息子と2人で掘ったり土をどけたりしているうちに、プレーパークに遊びに来ていた他の子どもたちが何人か来て、「何してるの~?」と興味深げな様子。やがて、1人、2人と穴掘りや水運びに加わり、最後は5~6人ほどの「プロジェクト」として3つのダムと2つの経路を持つ川が完成しました。所要時間は1時間半程度でした。

プレーパークは、一般の公園に加えて遊びの幅がずっと広い場所です。子どもたちは、木登りに焚火(大人がそばにいます)、水遊び、くぎ打ち、楽器弾きなど、さまざまな遊びを思い思いにしています。その中で、自分が始めたことに他の子どもたちが何人も参加してくるというのは、今日が初めての体験でした。そこで感じたのは、自発的に参加してくると子どもたちは本当に熱心に物事に取り組むし、自分たちのアイデアを加えながら遊びをどんどん発展させていくなあ、ということでした。そして、あまり年齢に関係なく面白そうなことには近づいてくるんだな、ということも自分にとっては発見でした。土を掘る、水を運んで流すというわかりやすくて間口の広い行為だったこともあるのでしょうが、今日来た子どもたちは、見たところ大体3歳~12歳ぐらいまでバラツキがありました。そうした面々が、川を作るという軸に沿いながら思い思いのスタイルで遊びに参加している姿を見て、何だかいいなあと思いました。

2011年6月19日日曜日

TEDxKids@Tokyo 始まります

今年のTEDxTokyoが終わってひと月。その後会った運営スタッフの中には「終了後しばらくは(ちょっと放心したように)ゆっくりしてた」という人が何人もいますが、日本におけるTEDxの新しい取り組みであるTEDxKids@Tokyoが動き出しました。

今週オープンしたサイトはこちらです。
http://tedxkidstokyo.com/

TEDの精神を生かし、子どもたち(今回のイベントでは8~12歳が対象)が主役の、アイデアを共有するための機会やつながりを作っていこうという取り組みです。自分もスタッフの一員として関わっていきます。具体的な動きは、上記のウェブサイトやTEDxKids@Tokyoのツイッター、フェイスブック・ページなどを通じて順次お知らせしていきます。どうぞご期待下さい。

2011年6月10日金曜日

Playing For Changeの新譜「PFC2」

帰宅したら、注文していたPlaying for Changeの新譜「PFC2 Songs Around the World」が家に届いていました。

Pfc 2: Songs Around the World
Pfc 2: Songs Around the WorldPlaying for Change

Hear Music 2011-05-31
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Playing for Changeのことは以前にも書いたことがありますが(こちら)、世界各地のミュージシャンが曲をバーチャルに共演し、音楽を通じて世界をつなげていこうというプロジェクトです。前作に入っていた「Stand By Me」などは、日本でもCMに使われたりして話題になりました。

その第2作が出るということで心待ちにしていたのですが、今回も世界のさまざまな場所からの音楽家が参加して曲を歌いつなぎ、音楽の楽しさやポジティブなパワーがひしひしと感じられる内容になっています。前作で「Stand By Me」や「One Love」などの大名曲がカバーされていたように、PFC2では「Imagine」や、ボブ・・マーリーの息子ステファンが参加する「Redemption Song」などが歌われています。


また、DVDには、前作で「Stand By Me」のリードヴォーカル的な位置づけだったロジャー・リドリーをフィーチャーした「(Sittin' On) The Dock Of The Bay」が入っているのも嬉しいところです。 ソウルフルで心地よい曲を聴きながら、帰宅後のひと時をゆったりと過ごしました。

2011年6月4日土曜日

[読書ノート]「おまんのモノサシ持ちや!」

先日のエントリで、デザイナー梅原真さんの著書「ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景」について書きましたが、梅原さんを取り上げたもう1冊の本を紹介します。

おまんのモノサシ持ちや!
おまんのモノサシ持ちや!篠原 匡

日本経済新聞出版社 2010-06-26
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こちらは、日経BPの記者である著者が、梅原さんの活動を取材して著した本です。本人による書とこうした本がほぼ同時期に出版されるのも珍しいことだと思います。梅原さんは、日経の本の取材を受けていたために当初は「ニッポンの風景をつくりなおせ」の企画を渋ったそうですが、最終的にはそちらは”作品集”だという位置づけで仕分けをして出版に同意したそうです。

両方の本を読んでみて、「やはりどちらも出版してくれてよかった」と強く感じました。梅原さんが自ら、自分の作品やデザインした商品やサービスに対する依頼主の思いを綴る作品集がある一方で、少し離れた視点から梅原さんの仕事への取り組み方を読み解く本が別にあることで、より立体的に梅原さんのデザインに対する哲学とでも呼べるものが浮かび上がっています。

どちらの本からも強く感じられるのが、梅原さんがデザインを、生産者と消費者をつなぐコミュニケーションのあり方だと考えている点です。コミュニケーションのスイッチを入れ、人が商品やサービスに関心を向けるようになるためのツールとして、デザインは大きな可能性を持っているというのです。この本では、梅原さんが通常ネガティブに見られている要素(マイナス)を掛け合わせることで「プラス」を生み出し、それが意外感を持つことでコミュニケーションのスイッチを入れている、と分析しています。そしてそのために重要なのが、「自分たちが何者なのか、それを表明すること」だとしています。

デザインが、グラフィックや色づかいのカッコよさといった表面的な意匠の問題に留まるのか、より深く本質的なものをわかりやすく伝えるものになっているのかの違いは、このあたりにあるのではないかと感じます。

また、この本では梅原さんがグローバル化の時代の中でローカルが持つ意義について語った言葉が紹介されていました。グローバル化が進むほどローカルが持つ文化や伝統、多様性が大切になり、ローカルな資源を地元の人々の手で活用していくことが強みになる - というその主張に、深く共感しました。

2011年5月20日金曜日

TEDxTokyo 2011

21日(土)に開催されるTEDxTokyo 2011。今年のテーマは「Enter the Unknown 〜未知への扉〜」です。

http://tedxtokyo.com/ja/

国内外から、科学やビジネス、芸術などさまざまな分野のトップランナーたちおよそ30名を招いて、講演が行われます。当日の模様は、上記サイトでライブストリーミングされることになっています。

僕は昨年に続いて運営スタッフの一員としてイベントに関わっています。ボランティア・ベースなので、できることもできないこともありますが、昨年よりも深く関われているなと実感できるのは、自分の中では嬉しいことです。

TEDxTokyoには、いろいろな関わり方があります。スピーカーとして登壇される方、会場でイベントに参加される方、ライブストリーミングをご覧いただく方etc. 楽しみ方もまたいろいろですが、運勢スタッフとして参加するのも、TEDトークを翻訳するのとはまた違うやり甲斐があり、とても楽しいことだなと思っています(大変なことも多いけれど)。

開催まであと少し、どうぞお楽しみに。

2011年5月19日木曜日

「日本のデザイン2011」展と梅原真さんのトークイベント

ミッドタウンのデザインハブで開催中の「日本のデザイン2011」展(6/5まで)で行われた梅原真さんのトークショーに行ってきました。

「日本のデザイン2011」は、3人のデザイナーが「Re:S(りす)」の編集長などを務める藤本智士さん、そしてカメラマンとともに日本の地方を旅して、デザイナー独特の視点からその土地を見つめる、という企画です。参加したデザイナーは梅原真さん、森本千絵さん、山中俊治さん。それぞれ、秋田、兵庫、鹿児島(種子島)へと旅をしました。

デザインハブにはその旅の模様が展示されています。会場内に透明のビニールシートを何枚も吊り、そこに旅の様子が写真と文章、さらにツイッターでの当時のつぶやきなども交えて紹介するという内容。会場内を歩き回りながら上質の紀行文の「読み歩き」をするような構成がとても新鮮に感じられました(3つの旅の記録が文章でもしっかりと書かれているので、ちゃんと読もうとするとかなり時間がかかります。45分~1時間ぐらい見ておいた方がよいかも)。

この企画展に関連して、旅に出たデザイナーとカメラマン、そして藤本さんで旅を振り返るトークイベントが行われました。3日間の開催の中で、僕が行けたのは、梅原さんが参加したこの日だけ。他の2人を招いた回にも行きたかったのですが、仕事の都合でそちらは無理でした。でも、10年ぐらい前に「砂浜美術館」のことを知ってそのコンセプトに衝撃を受けてから、ずっとお話を伺ってみたいと思っていた梅原さんのトークがナマで聞けただけでも、これは本当に嬉しい機会でした(梅原さんが東京で講演やこうしたイベントに出ることはほとんどないのです)。

梅原さんは、地元・高知を中心に、一次産業の産品やサービスに関わる分野に特化したデザインを行っています。その作品やデザインの背景は、著書「ニッポンの風景をつくりなおせ 一次産業×デザイン=風景」の中でも紹介されていますが、イベントでも梅原さんのデザインに対する哲学を感じ取れるような発言が端々にありました。印象的な言葉をいくつか紹介します。

「デザインは人生相談から始まる。」
「コミュニケーションを上手くできるようにするのがデザイン。かっこいいとか悪いという問題ではない。」
「スケールが合っているということ。それは人の幸せに大いに関係している。」

デザインとは、ただ単にグラフィックを指すのではなく、売れない農産物や加工品などを抱えた農家や漁師の人が相談にやってきて、そこからデザインの仕事が始める。そして、地元の遺伝子を適度に織り込みながらデザインすることで、コミュニケーションのスイッチを入れる。それが製品を売り、経済を回し、一次産業を持続させることにつながる。-そんな哲学です。

梅原さんの言葉を聞いていると、また、「日本のデザイン2011」の旅の途中で3人のデザイナーが出会った地元の人々のエピソードを読んでいると、「ローカルが元気で幸せであること」の大切さが身に沁みて感じられました。いま自分はボランティアでTEDの活動に携わっています。これは、国境や言葉の壁を超えて良いアイデアを広めていこうという言わばグローバルな方向性をもった活動ですが、そうしたグローバル性と、梅原さんや「日本のデザイン2011」が提示しているようなローカル性を上手く結びつけることができたらすごく面白いのではないか、という思いが心に浮かんできました。

2011年5月8日日曜日

[読書ノート]「ニッポンの風景をつくりなおせ」

GWの連休中に開催される、高知県黒潮町・砂浜美術館の「Tシャツアート展」。今年も行くことはできませんでしたが、とても好きな場所です。大阪にいた頃は、夜行バスを使って「ゼロ泊2日」で訪れたこともありました。

東京からだとどうしても腰が重くなってしまうのですが、今年は「砂浜美術館」のコンセプトの生みの親であるデザイナーの梅原真さんの本を2冊読み、多少なりとも気分を味わうことしました。どちらも非常に面白かったので、1冊ずつ紹介していきます。

まずは梅原さん自身の手による作品集「ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景」です。
ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景
ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景梅原 真

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梅原さんは、高知県を拠点に、一次産業に関わる物品や企画のデザインを手がけている方です。目線をずらすことで、それまで気づかれなかった地域の産品が持つ魅力をあぶり出し、それを広く人々に伝えるという活動を続けています。一次産業にデザインをかけあわせて新しい価値を生み、経済を回すことで、その産業が生き延びるとともに、それに関わる地元の風景を残していくことができる - これが梅原さんの活動の源であることが、本書を通じて幾度も語られていきます。

砂浜美術館のコンセプト作りに加え、お茶や鰹、アイスクリームなど、梅原さんが手がけた産品のデザインワークとともに、それぞれにまつわるエピソードを紹介していくというのがこの本の構成です。当初書店で見かけたときは、写真で大きく扱われているデザインの紹介という側面が印象に残り、ちょっと高めの値段とも相まって失礼ながら購入には至らなかったのですが、後日手に取って読み始めると、あまりの面白さに一気に最後まで行きました。特に、各産品の開発や販売に携わった「人」に焦点を当てながら、梅原さんの主張や考えを織り交ぜつつ、デザインが生まれ完成するプロセスが語られる文章部分が秀逸です。

梅原さんが大切にしていることを本書から抜き出すと、例えばこんなキーワードが見えてきます。
「マイナスをプラスに変える力」
「情報を一つの濃縮された形にして、端的に生活者に受け渡すコミュニケーションデザイン」
「きっかけを掴んで商品をつくっていく力」
「バックできる力」

取り上げられたそれぞれの産品やデザインワークを見ながら、梅原さんの作品にはこれらの思想が太い軸として貫かれていることが実感できました。と同時に、上に述べたようなことは、地域の一次産業だけでなく、より広い分野で大切なことなのではないかとも感じました。特に、今の日本は、一次産業の問題に加えて人口の減少、経済の停滞、震災による大きなダメージなど、いろいろな困難を抱えています。その中で、これまで通りの開発や経済成長を最優先にし続け、「前へ前へ」と進もうとするやり方とは違うアプローチも必要とされているのではないかという気持ちになっている人も、少なからずいるように見受けられます。そのような中で、この本に書かれているような、視線をずらしながら、そして必要な時にはスイッチを「後退」にも入れながら、たとえマイナスのものであってもプラスに変えていこうとする姿勢が、個人にとっても組織に取っても、とても重要なのではないかという気がします。

2011年5月6日金曜日

シーカヤッキング

先日、葉山の海で親子シーカヤッキングの半日ツアーに参加してきました。長者が崎の浜からカヤックで岬に向かい、潮の引いた磯場で生き物を観察するという内容のものです。4歳の子どもはこうした形で海に乗り出すのは初めて。怖がるかなと思いましたが、心配は無用で、かなり楽しんでいたようです。

岩の間をカヤックで通り抜けたり、海藻や海の底を眺めながらパドリングしたりといったことももちろん楽しかったのですが、磯場でガイドの方たちが見せてくれた、海の生き物や生態系に関する豊富な知識がツアーをさらに素晴らしいものにしてくれました。海好きと言いながら、磯に暮らすカニや貝の名前をほとんど知らない自分が恥ずかしくもなりましたが・・・。

イベントを主催してくれたのは、葉山のNPOオーシャンファミリー海洋自然体験センターの方たちです。クラブハウスで聞いたお話も、海や浜辺での身のこなしも、自然体で海と接している姿が伝わってきて、すごく素敵だなと感じました。今年は自分ももう少し海と接する機会を増やして行こう、と思いました。

2011年5月5日木曜日

[TED]キャロライン・ケイシー「限界の向こう側」

日本語訳のレビューをしたキャロライン・ケイシーのTEDトーク「限界の向こう側」が公開されました。困難を乗り越え、自らの信念を持ち続けることでこんなにも人の可能性は広がるのかと、心を揺さぶられました。是非、ご覧になってみて下さい。


[TED Women, 15分34秒]

2011年5月2日月曜日

アメリカからの友情

震災への支援について、僕の身の回りに起きていることを紹介します。ささやかな事例ですが、遠くからでも災害から立ち上がろうとしている方たちを応援しようとしている人がいること、そしてそのつながりから僕も大きな励ましを受けていることを記しておきたいと思います。

以前カリフォルニアに留学していた時、アパートの隣の部屋に住んでいたおばさんとお婆ちゃんの母子に仲良くしてもらっていました。母親のカーラが85歳、娘のローズマリーが60歳ぐらい。当時1歳だったうちの子をすごく可愛がってくれ、また息子も、隣の家で飼っていた猫(よく廊下を散歩していた)に興味津々でした。僕たちが帰国した後も、時折メールでの連絡は続け、カリフォルニアを訪れる際は2人のところに遊びに行ったり していました。

3月の震災の後、 ローズマリーがうちに電話をかけて来てくれました。それまで、彼女たちと国際電話でのやり取りをしたことはなかったので、どれ程心配してくれているのかが察せられました。津波の被害や原発の報道などを向こうで見て、僕たちのことを案じてくれたのだと思います。気遣いに感謝しつつ、大きな地震だったけれど、東京に住んでいる自分たちは大丈夫だということを伝えました。

それから2週間ほどしたある日。2人から封筒が届きました。僕たちのこと、そして被災地の人々を気遣う手紙とともに、10羽の折り鶴(以前に作り方を教えたことがありました)、そして何と100ドルの郵便為替が同封されていました。温かいメッセージ、そして「Friends forever」という結びのひと言を見て、涙がこぼれそうでした。決して裕福ではないだろう2人からいただいたお金の重さを感じつつ、2人がうちの子どもにとても良くしてくれていることを考え、被災地の子どもたちに絵本を買って送るための資金の一部として使うことにしました。そのことを報告すると、「よかった。あのお金は、どこかの団体に寄付するものでなく、直接役に立ててもらいたかったの。」という返事がきました。

そして数日前。2人から再び封筒が届き、メッセージ・カードとともに今回も100ドル分の郵便為替が同封されていました。100ドルというのは、決して少ない額ではありません。また、日本での換金時に手数料がかからないので、アメリカで郵便為替を作る時点で少なからぬ手数料がかかっているはずです。あまり負担になっていなければよいのだけど・・・と心配をしつつ、2人の友情と好意に深く感謝する返信を送りました。「直接役立ててほしい」と僕たちに支援金を送ってくれた以上、これを大きな団体に寄付する訳には行きません。2人の代理として、現地で活動をしている団体で子どもの支援を行っているところに直接寄付をしようと、現在宛先を考えているところです。

カーラとローズマリーからいただいた温かいメッセージと支援金を通じて、個人のつながりの大切さ、そして広く災害支援についていろいろなことを考えました。もし逆のケースでアメリカで地震が起きていたら、自分は2人に同じような気遣いの言葉や支援金を送ることができていただろうか?遠くアメリカからいただいた好意に比する継続的な支援を、被災地と同じ日本に住む自分が出来ているだろうか?などなど。2人の姿勢に見習わなくてはいけない点がいくつもあるなと感じつつ、人と人とのつながりを通して、最も支援をしたいと思う分野に直接お金やモノが回るような支援のあり方に、こうした形で少しでも貢献できていければよいなとも考えています。

2011年4月23日土曜日

リサ・ガンスキー:次世代のビジネスは「メッシュ」である(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「リサ・ガンスキー:次世代のビジネスは『メッシュ』である(Lisa Gansky: The future of business is the "mesh")」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。

リサ・ガンスキー:次世代のビジネスは「メッシュ」である(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。今回も引き続き、翻訳・レビューが終わって日本語字幕が公開されたばかりのトークです。

「リサ・ガンスキー:次世代のビジネスは「メッシュ」である(Lisa Gansky: The future of business is the "mesh")」

[TED@Motorcity, 14分48秒]

スピーカーのリサ・ガンスキーはアメリカの起業家で、少し前に邦訳が出たビジネス書
メッシュ すべてのビジネスは〈シェア〉になるの著者でもあります。この本の日本語版公式サイト(こちら)によると、メッシュとは、「モバイル・SNS・クラウドなどの情報インフラとデータを網目のようにつないで適時に適量なだけモノやサービスを提供するビジネス」という説明がされています。具体的な企業やサービスの事例を挙げながらこのメッシュというコンセプトを説明しようというのが、このTEDトークの大まかな内容です。

メッシュ・ビジネスを行うには、人々がシェアを行う場となるプラットフォームを作り上げることが重要だという主張は、まさにその通りです。ただ、プラットフォームというと、得てしてグーグルやアマゾンなどの巨大企業に目が行きがちです。このトークでは、ジップカーのような注目企業だけでなく、個人あるいは小さな組織が行っているような雑貨屋の例まで語られていることで、メッシュというコンセプトを身近に感じることのできるものにしている気がします。

このトークはとても面白いものでしたが、同時に訳すのに苦労したトークでもありました。話す文章が必ずしも(主語)-(動詞)のパターンになっていない箇所がいくつもあり、そのままどんどん先に行ってしまうからです。僕の一次訳を見てくれたレビュワーの方に、本当に助けていただきました。その分、読みやすい訳になったのではないかと思っています。

2011年4月12日火曜日

「マーク・ベゾス:ボランティア消防士が語る人生の教え」(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「マーク・ベゾス:ボランティア消防士が語る人生の教え(Mark Bezos: A life lesson from a volunteer firefighter)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。

「マーク・ベゾス:ボランティア消防士が語る人生の教え」(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。今回は翻訳・レビューが終わって日本語字幕が公開されたばかりのトークです。

「マーク・ベゾス:ボランティア消防士が語る人生の教え(Mark Bezos: A life lesson from a volunteer firefighter)」

[TED2011, 4分8秒]

スピーカーのマーク・ベゾスは、ニューヨークのロビンフッド財団というNPOで働きながら、地元でボランティア消防団にも参加しています。それらの活動を通して彼が学んだボランティアや思いやり、親切な行為についてのアドバイスが語られています。4分間とTEDの中では短いトークですが、途方もない災害を目の当たりにして「自分たちに何ができるのだろう」と考え込んでしまいがちな今、このタイミングで日本語に訳して紹介したかったトークです。是非ご覧になってみて下さい。

※このトークの日本語訳文は、こちらでご覧になれます。

2011年4月4日月曜日

2冊の写真集

最近、これはいい!と感じる写真集2冊に続けて出会いました。

まずは、先日このブログでも取り上げた(こちら)野村哲也さん(新書「パタゴニアを行く」の著者)による、パタゴニアの写真集。

PATAGONIA―野村哲也写真集
PATAGONIA―野村哲也写真集野村 哲也

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新書では文章も良かったのですが、こちらの写真集はまさに「写真だけ」で勝負、という作品です。巻末にそれぞれの写真の簡単な解説はついていますが、あとはほぼ写真のみ。空、雲、山、道、海、氷河・・・といった、パタゴニアの風景を織りなす要素が、見事に写し取られています。パタゴニアは天候が変わりやすい場所だと聞きますが、その中でこれだけ鮮やかな写真を撮ることができたのは、現地に住んだからこそなのでしょう。

そしてもう一冊は、宇宙の写真集です。
ファー・アウト―銀河系から130億光年のかなたへ
ファー・アウト―銀河系から130億光年のかなたへマイケル ベンソン Michael Benson

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こちらは、銀河系から徐々に遠くへ向かい、130億光年のかなたまで、宇宙と星々の写真を載せたものです。写真はハッブル宇宙望遠鏡やNASA、地球にある巨大な望遠鏡や大学の研究施設などから提供されたものが使用されています。無数に散りばめられた星や、ガス星雲、遠くに浮かぶ銀河など、圧巻の写真がページをめくるたびに現れます。大判のサイズを上手く活かした、迫力あふれる写真集です。

パタゴニアの写真を見ては「いつかはここを訪れてみたいな」と思い、宇宙の写真を眺めると、そのスケールに圧倒されました。 そういう意味ではこの2冊の写真集は大分と趣きを異にするものなのかもしれません。ただ、どちらも、日常からすこし離れて遠くに思いを馳せるきっかけを作ってくれたという点では同じ効果を持っていました。日々いろんなことがあって、知らず知らずのうちに目の前のことに追われがちになってしまう中、視線を遠くに導き、夢や想像力をかきたててくれるこうした写真集は、すごく貴重なものに感じられます。

2011年3月31日木曜日

「カーク・シトロン:本物のニュースとは」(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「カーク・シトロン:本物のニュースとは(Kirk Citron: And now, the real news)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。

2011年3月28日月曜日

「カーク・シトロン:本物のニュースとは」(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「カーク・シトロン:本物のニュースとは (Kirk Citron: And now, the real news )」

[TED2010, 3分22秒]

The Long News」というサイトのキュレーターがそのプロジェクトの狙いと意義を伝える、短いトークです。

「The Long News」は、50年後、100年後も重要であり続けるであろうニュースを見出し、それに光を当てて残して行こうという取り組みです。ダニー・ヒリス、スチュアート・ブランド、ケビン・ケリーらが設立した「ロング・ナウ協会」のプロジェクトの一つとして行われています。

自分たちが日々さまざまなニュースに囲まれて過ごしていることは実感しやすいものだと思いますが、例えばロイター1社だけで年に350万ものニュース記事を配信しているという冒頭のひと言には驚きました。膨大なニュースの中で長期的にも重要な意味合いを持つものは限られていて、しかも、必ずしもそうしたニュースが大きな扱いを受ける訳ではないという主張も納得ができるものです。「The Long News」のサイトを見ると、あまり頻繁に取り上げるニュースのアップデートがされていない(最近は月に1~2回程度)ので、どれ程日々のニュースを詠み込んだ上での選択なのだろう?というのは若干疑問を感じますが、このトークで語られている理念には共感を覚えます。

我が身に引きつけて言うならば、日本ではいま、東北から関東を襲った大震災のニュースが日々大量に流れて来ています。その時々の最新ニュースに注意を払うことはもちろん大切ですが、目先の情報のみにとらわれることなく、今回の地震・津波およびそこから派生した原発の問題まで、この災害がもたらした甚大な影響の中で50年先、100年先にまで伝えていくべきことは何か、という視点を時には持つことも必要なのではないか、という気にさせられました。

2011年3月22日火曜日

「Chillout Song (心を落ち着かせる歌)」の物語

今回の大震災では本当に痛ましい被害が出ていますが、歌の力を通じて少しでも被災された方々を元気づけたり、支えたりしようという動きも出て来ています。もしかしたらこの曲にもいくらかそんな力があるかもしれない、と思って紹介することにしました。

Ze Frank (ゼイ・フランク)「Chillout Song」


ゼイ・フランクは、カリフォルニアを拠点に、ウェブ上で番組の司会やパフォーマンスを行ったり、人々に参加を呼び掛ける企画を立てたり、という活動を行っています。ウィキペディア(こちら)では、「オンライン・パフォーマンス・アーティスト、作曲家、ユーモア作家、講演家」と書かれています。

「Chillout Song」は、日本語でいえば「心を落ち着かせる歌」とでもいった感じでしょうか。この曲の企画は、ローラという女性がゼイにメールを送ったことがきっかけに始まりました。ゼイのウェブサイトに曲が生まれたいきさつが書いてあるので(こちら)、簡単に要約します。

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新しい土地に引っ越し、新たな仕事を始めて環境の激変に疲れてしまったローラが、ゼイに「心が打ちのめされてしまった時のための曲を作ってもらえませんか」というメールを送りました。彼女は、以前にゼイが、夜に1人で寝るのを怖がる子どものために歌い聴かせる曲をファン(もしくは知り合い?)からの依頼で作ったことを知っていたのです。メールを読んだゼイは、打ちのめされた(overwhelmed)時には実際どんな風に感じるのかをローラに尋ねつつ、一方で短いメロディと歌詞を作り、それにコーラスをつけてくれるようにという依頼を(ローラに知られないよう)静かにネット上で流します。

呼びかけに応じて、コーラスの録音が続々と送られてきました。ゼイはそれを曲にまとめ始めます。そして最初のメールから約ひと月が過ぎ、ローラから「お願いしていた曲はもう無くなってしまったんですね」というあきらめのメールが届いた数日後、ゼイは完成した曲をローラに送ります。ローラは、自分と縁も何もない、見知らぬ人の参加と協力によってこの曲ができたことに、大きな感銘を受けます。
=================

人を静かに元気づけようとするこの曲のメロディと歌詞もすごく好きなのですが、市井の人々の善意がひとつの曲を作り上げたというストーリーもいいなあと思います。ネットが持つポジティブな力の一面を表すプロジェクトだと言えるかもしれません。

実はこの曲、ゼイ・フランクのTEDトーク「Ze Frank's web playroom」を翻訳していて見つけました。トークの最後でこの曲のことが語られています。一次訳は終わっていますが、3/21時点でまだレビューしてくれる人がついていないので、日本語訳は未公開です。日本語訳がアップされたら、またお知らせします。

2011年3月5日土曜日

BBCの「Human Planet」

BBCの「Human Planet」という番組のトレイラーを見ました。イギリスでこの1月から8本シリーズで放送されてきた番組で、ちょうど今週が最終回だったようです。BBCのユーチューブアカウントにトレイラーが載っています。



・・・圧倒されました。これまで「Planet Earth」や「The Blue Planet」、そしてデイビッド・アッテンボローのナレーションで知られる数々の自然番組を発表してきたBBCのNatural History Unitが中心になって制作した番組だと聞いたので、質の高いものだろうとは思っていました。でもこれは、いくつかの短いクリップを見ただけでも、単純に「自然番組」と呼んで終わりにできる番組ではないと感じました。

このシリーズは、自然そのものというよりも「極限の環境における人々の営み」を、取材対象とする人々に寄り添いながら記録したものです。雄大な風景や動植物などをテーマにした番組は、美しいし、時に自然の世界の厳しさを感じさせてくれます。そうした場所を旅したり探検したりする人を主人公に据えた番組というのも、彼・彼女とともに旅・探検をしているような気分になれて楽しめます。でも「Human Planet」のlクリップを見てまず感じたのは、そうした自然の掟が支配し、探検の対象となるような場所で過酷な環境に対峙しながら命をつなぐ人々の「気高さ」もようなものでした。映像の美しさもさることながら、このアプローチ、この視線は、これまでに自分が映画やテレビ番組で見たことのないものです。番組の全編を見たい!と強く思わずにはいられませんでした。

最後にもう一つ、BBCがユーチューブにあげているこの番組の短い動画を紹介します。干満の差が激しいカナダの氷の海で、潮が引いた時に海氷に穴を開けてその下の海底に潜り込み、貝を採るイヌイットの人々の映像です。是非、こちらもご覧になってみて下さい。




<参考>
BBCの「Human Planet」ページ:
 http://www.bbc.co.uk/nature/humanplanetexplorer/
  ※このサイトの動画は日本からでは見られないはずです。

2011年3月3日木曜日

読書ノート「パタゴニアを行く-世界でもっとも美しい大地」

南米大陸の先端部、南緯40度以南に位置するパタゴニア。国でいうとチリとアルゼンチンに属しています。この本は、チリ側のパタゴニアに移り住んだ写真家が、パタゴニアの暮らしと旅の模様を綴ったものです。

カラー版 パタゴニアを行く―世界でもっとも美しい大地 (中公新書)
カラー版 パタゴニアを行く―世界でもっとも美しい大地 (中公新書)野村 哲也

中央公論新社 2011-01
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写真と時に詩的な文章のバランスがすごく良いな、また、現地に住んでいるからこそ可能な視点や人とのつながりを最大限に生かして書かれた本だな、というのが、まず感じたことです。最近は段々と年を取ってきたせいか、旅行記などを読んでも以前ほど響かなくなっていたのですが、久々に「すぐにでも旅行に出たい」という気持ちになりました。パタゴニアは、ブルース・チャトウィンや椎名誠さんのエッセイで、また高品質なアウトドア衣料品を扱う会社の名前として、大分と前から気になる存在ではあったのですが、この本を読んで、自分の中ではっきりと「是非とも訪れてみたい場所」になりました。

読み返してみて特に印象的だったのが、著者が先住民族の人との交流の中で聞いた言葉を記している箇所でした。

「大地が人間に属しているのではなく、人間が大地に属しているのだよ」(マプーチェ族のセルマ婆ちゃんによる言葉)

「一人ぼっちで闇の中に放り出されたとき、大切なのは焦らずに、まず心に大きな白地図を描くこと。そこに知識をひとつずつ当てはめていく。そして自分の思った方角の闇へ、一気に漕ぎ出す。ありったけのエネルギーをつぎ込んで。絶対にその先に自分の場所がある、と信じてイメージするんだ。もしそのイメージが崩れたら、きっと遭難してしまうだろう。信じること。そこにあることをただまっすぐ、信じるんだ。」(海洋民族カワスカル族の一員で、カヌーの伝統航海術を知るリンチェさんの言葉)

こんな言葉を読んでいると、アラスカで先住民と交流を深めた星野道夫さんの著作が思い出されました。極北と、極南。遠く離れた場所から同じ雰囲気が漂ってくるのは、きっと、偶然ではないのだろうなと思います。

2011年2月20日日曜日

子どもと自転車

交通公園という、子どもが自転車の乗り方や交通ルールなどを学べる公園に行ってきました。子どもが自転車を借りて、信号や踏切、「とまれ」のサインなどがあるコースを走ることができる場所です。うちの子は3週間ほど前にここで練習して、補助輪なしで自転車に乗れるようになりました。

交通公園の良いところは、それほど広くはないとはいえ車が入って来ない専用のコースなので、一般の道よりもずっと自由に子どもを走らせることができる点です。補助輪なしで乗れるようになって以来、近くのスーパーまで買い物に行く時もいつも「自転車で行きたい!」と言って練習してきてはいたのですが、やはり普通の道では歩行者や他の自転車、車なども多く、なかなか「好きなように走ってきていいよ」とはいきません。なので乗れるようになってからの上達の度合いがあまりよくわからなかったのですが、今日はほぼ完全に自転車を乗りこなしていて、改めてこの年代の子どもの吸収の早さに驚きました。

交通公園には他にも同年代で補助輪なしの自転車に乗っている子が何人かいましたが、そんな姿を見ながら「子どもって本当に自分の体の一部みたいに自転車を動かすんだな」と思いました。ちゃんと乗れるようになった子どもと自転車には、一体感のようなものが感じられたのです。これは、大人が使う自転車とは別の乗り物なのではないか-という印象さえ受けるほどに。

それは恐らく、子どもが自転車に乗ること自体を心から楽しんでいるからなんだろうなと思います。アメリカで「ものづくりの学校 (Tinkering School)」を主宰するゲーバー・タリーは、このブログでも紹介したTEDトーク(こちら)の中で、ポケットナイフを子どもが持つ「初めての万能ツール」だと位置づけ、その使い方を学ばせるよう説いています。補助輪なしで自転車に乗れるようになるということもそれと同じです。自転車を自在に乗りこなすことができれば、これまでに体験したことのないスピードを自ら生み出すことができる。そして、自分の力で行ける範囲を大きく広げることができる。そんな大きな可能性を全身で感じ取っているからこそ、夢中で自転車の練習をし、あたかも熟練の職人が道具を使うかのような一体感が生まれるのではないか、と感じました。

2011年2月19日土曜日

「ブライアン・グリーンが語るひも理論」(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「ブライアン・グリーンが語るひも理論(Brian Greene on string theory)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。


2011年2月14日月曜日

「ブライアン・グリーンが語るひも理論」(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「ブライアン・グリーンが語るひも理論 (Brian Greene on string theory)」

[TED2005, 19分10秒]

理論物理学者で、超ひも理論の提唱者として知られるブライアン・グリーンによるトークです。原子や素粒子よりもさらに小さな物質の基本単位として、ひものような振動するエネルギーの繊維があるとし、そのモデルに基づく宇宙の構造を説明しています。

自分は物理について全く詳しくないので、ただ「10次元の空間と1次元の時間を持つ宇宙」と言われても想像の範囲を超えています。でもこのトークでは、アインシュタインやテオドール・カルツァなど、時空の性質についての先駆的な研究をしてきた人たちの業績を振り返りながら、また平易な例を用いながら高次元宇宙についての説明をしているので、何となくはそれがどういうものなのかイメージできました。講演原稿を見ながら訳している時は、随分と同じことを繰り返し言ってるなという気がしていましたが、動画とともに見直して、「こういう難解な話を一般向けにする時は、これ位かみ砕いて繰り返し説明しないとわからないな」と実感しました。それぐらい丁寧な説明がされているトークだと思います。

ちなみに、ブライアン・グリーンはつい先月(2011年1月)に新著「The Hidden Reality: Parallel Universes and the Deep Laws of the Cosmos」を出版しました。僕は読んでいませんが、Amazon.comで書評やレビューを見ると(こちら)、かなり高評価を受けているようです。早く邦訳が出てくれると良いなと期待しています。

<その他の関連リンク>
・ウィキペディアでの「超ひも理論」の項目(こちら
・コロンビア大学の教員紹介ページ
・著書「エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する」(2001年)
・著書「宇宙を織りなすもの―時間と空間の正体」(上)(下)(2009年)

2011年2月13日日曜日

桶の水とチームワーク

子どもの頃に学校で先生にされた話というのはもうほとんど覚えていないのですが、小学校3~4年の時の担任だった六車先生という女性の先生に教わったことは、今でも時々頭に浮かんでくることがあります。子どもの心をつかむのが非常に上手な先生だったのですが、特に印象深かったのが「桶の水」の話です。細かい違いはあるかと思いますが、大体こんな内容でした。


○年□組を一つの桶だとすると、クラス40人のみんなは一人ひとりが
桶の側板です。40枚の側板がぐるりと一周して、桶になるのです。

コップを水で一杯にして、その上からさらに静かに水を注ぐと、
水がコップの縁よりも少し盛り上がって入るのを知っていますか?
桶も同じです。みんなで力を合わせれば、側板の高さよりも
多くの水を入れることができます。

でも、どこか1枚でも側板の高さが低くなってしまうとどうなるでしょう。
そこから水が流れ出し、桶を水でいっぱいにすることはできません。

クラスで何かに取り組むということは、桶に水を入れるということです。
「自分は低い側板でいいや」と考えるのではなく、みんなで協力してください。
そうすれば、一人の力ではできないものを作り上げることができます。


どんな流れでこの話が出てきたのかは忘れてしまいましたが、内容からすると、恐らくはちょっと説教をしなければ、という状況だったのではないかと思います。ただ、先生は声を荒げる訳でもなく、黒板に桶の絵を描きながら静かに話をしていました。その姿はよく記憶しています。

これが言い伝えとかことわざのように、昔から伝わる有名な話なのかどうかは知りません。水の表面張力のこととか、今考えるとちょっと高度な内容が含まれている気もします。でも、大切なのはそのあたりの物理法則とかでなく、先生が子どもにもわかりやすいようにチームワークの大切さを話したということです。だから自分は今でもこの話を覚えているのです。

人の能力ややる気、志向性はさまざまです。だから実際のところ、人を桶の側板に例えるならば高さはバラバラなのかもしれません。でも何かをチームとして行う時には、それぞれが自らの持ち分を果たしながらも、側板の高さを合わせてチーム全体の成果を最大にすることも考えなければならない。 - 先生の話を今の自分が解釈しなおすと、こういうことなんだろうと思います。

2011年2月11日金曜日

種田山頭火

少し前、何気なく手に取った種田山頭火の句集にすっかりやられてしまいました。何でそれを読もうと思ったのかもはっきりと思い出せないのですが、山頭火が作った句の一つ一つが、自分の中にずしーんと響いてきました。

種田山頭火(1882-1940)。俳人ですが、自由律俳句という、五・七・五にとらわれない形式の句をたくさん残しています。放浪の暮らしを送りながら詠まれた山頭火の句からは、孤独ややるせなさを受け入れた上で周囲の自然を温かい目線で描いたようなものが多くあり、自分はそこに特に惹かれたのかなという気がします。彼の句集は、紀行文学として読んでも非常に面白いものだと思います。

印象に残った句を、いくつか紹介します。

「あの雲がおとした雨にぬれてゐる」

「雪空の最後の一つをもぐ」

「けふもいちにち風をあるいてきた」

「うれしいこともかなしいことも草しげる」


山頭火句集 (ちくま文庫)
山頭火句集 (ちくま文庫)種田 山頭火 村上 護

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2011年1月26日水曜日

視線をずらすということ

"Nowhere"は、見方を変えれば"Now Here"でもある - 言われればその通りなのですが、何年前でしょうか、初めてこのことを知った時にはかなり驚きました。どこで知ったのかはもう定かでありませんが、HEATWAVEの山口洋さんのブログか何かだったのではないかという気がします。

ただの言葉遊びではありません。今でもこの2つの言葉を時々思い出すのは、「どこでもない場所」と「今、ここ」という一見対極にあるものが、すっと入れ替わってしまうことに強い印象を受けたからだと思います。

このように、見方を変えることで生まれる新しい意味合いには、とても心惹かれるものがあります。自分が元々の意味を当然のものと受け止めていればいるほど、そして新しい意味がそこから飛躍していればいるほど、視点をずらすことで広がる新たな地平が新鮮なものに感じられるのです。

自分が気に入っているそんな例として真っ先に挙げられるのが、高知県西部の黒潮町(旧大方町)にある「砂浜美術館」です。

http://www.sunabi.com/


「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。」というコンセプトのもと、数キロに渡って広がる砂浜を美術館に見立てて松原や沖を泳ぐクジラ、砂浜の風紋などを作品だとするこの場所は、自分がもっとも好きな美術館のひとつです。毎年ゴールデンウィークの頃に開催される「Tシャツアート展」、是非また訪れてみたいと思っています。

もう一つ挙げておきたいのが「屋根の家」。建築家の手塚貴晴さんと手塚由比さんが設計した住宅です。屋根の上で過ごすのが好きだった施主のご家族のために、上でご飯を食べたり、ごろんと横になったりできる広~い屋根のある平屋建ての家ができあがったんだそうです。手塚さん夫妻が書いた『きもちのいい家』という本にも設計のプロセスなどが記されていますが、「屋根の上」を「屋根の下」と同じぐらい、もしくはそれ以上に重視したこの家は本当に素敵です。

自分が気づいていないものの見方や意味合いというのは、まだまだあるはずです。そうそう頻繁にあることではありませんが、またそんな気づきに出会えることを楽しみにしています。

2011年1月24日月曜日

読書ノート「スティーブ・ジョブズの流儀」

アップルの創業からiPod・iTunesあたりまでを対象に、スティーブ・ジョブズの仕事に対するアプローチを追った本です。

スティーブ・ジョブズの流儀
スティーブ・ジョブズの流儀リーアンダー ケイニー 三木 俊哉

ランダムハウス講談社 2008-10-23
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ジョブズを崇拝も酷評もせず、さまざまな場やインタビューなどでの彼の発言を丹念に拾い集めたり、アップルの創業時から最近に至るまでの各プロジェクトでの中心人物への聞き取りなどを行ったりすることで、ジョブズの考え方を浮かび上がらせています。

自分もiPodやiTunesは使っていますが、スティーブ・ジョブズ関連の本はこれが初めてでした。アップルの大ファンという程でもないので、面白くなかったら途中でやめようというぐらいのつもりで読み始めましたが、一気に最後まで連れて行かれました。全体を通した内容ももちろん面白かったのですが、ジョブズを始めとする登場人物の言葉や、文脈に合わせて著者が引用した節が非常に力を持っていて、その点がとても印象的でした。幾つかを抜粋して引用します。

「 スティーブのやり方がほかのみんなとちがうのは、最も重要な決定は何をするかではなく何をしないかを決めることだ、と信じていた点だ」(ジョン・スカリー)

「フォーカスグループに何がほしいかを尋ねてもイノベーションはままならない。彼らは何がほしいかを知らないからだ。大衆車を世に広めたフォード・モーター創設者のヘンリー・フォードがかつてこう述べている。『もしお客様に何がほしいかと訊いていたら、もっと速い馬という答えが返ってきただろう。』」

「簡潔さとは複雑さを研ぎ澄ましたものである」(コンスタンチン・ブランクーシ)

「イノベーションとはお金ではない。人材であり、彼らをどう導くかである。それをどれだけ理解しているかである。」(スティーブ・ジョブズ)

「年をとればとるほど。動機こそが大切なのだという確信が深まる。」(スティーブ・ジョブズ)

事業経営だとか新規製品の開発といった分野に限らず、日々の暮らしの中でもはっと我が身を振り返ってしまうような、そんなフレーズが散りばめられた本でした。

2011年1月18日火曜日

しいたけ栽培キット

昨年末にいただいた「しいたけ栽培キット」。毎日の水やりが必要とのことだったので、帰省などが終わった1週間ほど前から始めてみることにしました。栽培といっても、木の切り株を模した栽培ブロックを袋に入れ、毎日霧吹きで水を上げるだけ。部屋の中で簡単に育てることができます。気温が高いと育ちにくい(夜の最低気温が20度を下回る時期が栽培時期とのこと)そうなので、今はシーズン真っ盛りなのです。

「あっという間に伸びてくるよ」と聞いてはいたものの、にょきにょきと成長するその勢いを目の当たりにして驚きました。カイワレ大根などでも植物の生長の早さは実感できますが、こちらは大きさがある分迫力のようなものも感じます。

今日の昼間に撮った写真がこちら。

まだしめじぐらいの大きさでしたが、ここで一部を収穫してみることにしました。採ったしいたけは豆腐と一緒に味噌汁の美味しい具になりました。

この栽培キット、一度収穫を終えた後でもしばらく水に浸すことで何度かしいたけが生えてくるということで、しばらく楽しめそうです。

市民農園などを借りた農業や、家庭菜園などに取り組む人が増えて来ているという話を時々耳にします。自分もそうしたことに関心があるのですが、「しいたけの栽培」と聞くと、素人には何だかハードルが高いような印象を受けます。それをこんなに簡単にできるキットにしたのは、目の付けどころの良いアイデアだなと思いました。こうした一般向けの「農」関連の製品というのは、もしかすると、農家の方々のノウハウとアイデアを組み合わせると、他にもいろいろと面白いものが出来るのかもしれませんね。

こちらのしいたけ栽培キットは、楽天などで通販でも買えるようなので、ご興味があれば見てみて下さい(こちら)。

2011年1月16日日曜日

「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました」(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました(John Francis Walks the Earth)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。




2011年1月15日土曜日

「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました」(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました(John Francis Walks the Earth)」

[TED2008, 19分28秒]

"プラネット・ウォーカー"と呼ばれるジョン・フランシスのトークです。1971年にサンフランシスコ湾で起きたタンカーによる石油流出事故をきっかけに、彼は22年に渡って車やオートバイなどの乗り物に乗るのをやめ、アメリカ中を歩きながら環境のことを考え、学んでいきます。そのうち17年間はひと言も口を利かずに。しかも、無言の旅の間に2つの大学院に通い、Land Managementの博士号まで取得するのです。ここでは、その旅のことが語られています。

17年の無言、ひたすら歩いた20年以上の旅なんて聞くと、苦行のようにストイックなものが思い浮かぶかもしれません。でも、この動画で語るジョン・フランシスは"無口な修行僧"のような感じとは程遠く、おしゃべり好きで頭の回転が速く、そしてユーモア精神に満ちています。そんな人が長い内省の時を過ごし、その体験を"しゃべり好き"に戻った今振り返る-それがこのトークです。一つひとつのエピソードも抜群に面白いのですが、この落差とでも言えるものが、彼の話を一層興味深いものにしています。翻訳したのは1年以上前ですが、今でも一番気に入っているTEDトークの一つです。

フランシスは自らの体験を本にも著していて、『プラネット ウォーカー 無言で歩いて、アメリカ横断17年』という題名で邦訳も出ています。また、映画スタジオのユニバーサルが彼の体験の映画化権を入手したという話もありました。もう5年ほど前の話なので既に頓挫しているかもしれませんが、ウィル・スミスがフランシス訳をやるのでは?なんていう噂も一時は出たそうです。

プラネット・ウォーカーの話、是非ご覧になってみて下さい。

<その他の関連リンク>
Planetwalk: http://www.planetwalk.org/

2011年1月14日金曜日

昔のデジカメ

部屋の整理をしていたら、10年以上前に初めて買ったデジカメが出てきました。EPSONのCP-600というデジカメです。発売が1998年5月となっていますから、その年の夏~秋ごろに手に入れたもののはずです。

130万画素、単焦点。実際は、たくさん枚数を撮るため、ほとんどいつも一番画質の低いモード(30万画素ぐらい?)にしていました。電池の消耗が速くシャッターを押してからの反応も間が開くなど、当時も不便だなあと思うことはあったのですが、写真の色合いは結構好きで、いろいろなところに持っていっていました。その頃はパソコンのクラッシュも今よりずっと高い頻度で起き、コンパクトフラッシュなど外部メモリの値段もまだ高かったので、このデジカメで撮ったけれど今は残っていない写真や、辛うじて自宅で印刷した色のくすんだ写真だけが残っているものが少なからずあります。いま手元にあるものの中から、旅行の写真をいくつかご紹介します。






ヴェトナム、トルコ、マダガスカル etc.どの写真も思い出深いものばかりです。

ところでこのデジカメ、今でも電池を入れればちゃんと動くのですが、機能や利便性といった点で最近のデジカメとの差がありすぎるので、さすがに今使おうとはあまり思いません。自分は数十年前の古い銀塩カメラを大いに楽しんで使っているのですが、それとは対照的です。

クラシック・カメラと呼ばれたりして逸品扱いされる昔の銀塩カメラはありますが、恐らく今も、今後も「クラシック・デジカメ」というものは出てこないのではないかと思います。電気系統や電子部品の寿命の問題に加え、"今"のモデルの方が"昔"のモデルよりも遥かに機能が高いというデジタル機器の特性があるからです。

もちろん自分もデジカメの便利さは身にしみてわかっていますが、電池がなくても自分で絞りやピントを設定して写真を写すことができる昔のマニュアル・カメラを手にすると、数十年という時間を越えてなお道具として魅力を放っているその完成度の高さに驚かされます。機能や便利さだけを考えれば圧倒的にデジカメの方が有利なのですが、そうした要素はあっという間にバージョンアップされていくので、機能的な寿命という点ではアナログのカメラよりもずっと短いのではないかという気がします。「機能面での寿命が短く、時が経つと、使える状態にあっても使われることがなくなってしまう」というのは、デジタル機器の大きな弱点だと言えるのではないでしょうか。昔のデジカメに触れ、それで撮った写真を懐かしく思い出しながらも、そんなことを考えました。

2011年1月11日火曜日

自転車のサイドカー

先日カリフォルニアを旅行した際に、REIというアウトドア用品店に行きました。このお店、パタゴニアなどを始めとする取り扱い品の品ぞろえが良くて好きなのですが、今回「いいな」と思ったのは、店頭に置かれていた自転車に子どもを乗せるためのサイドカーでした。REIのサイトでの紹介はこちらで、価格は500ドルと表記されていました。決して安くはありませんね。

これは、Chariotというメーカーの製品だそうです。Youtubeに自転車への取り付け方を説明する動画も出ています(英語)。


自転車の後ろでトレイラーを引っ張る形の子ども用キャリアは見たことがありますが、このようにサイドカー形式というのは初めてでした。自転車がゆったりと走れる道が少ない日本ではこのようなキャリアを使うのはなかなか難しいかもしれませんが、「自転車にサイドカー」という発想は、確かにありだなあと思いました。

2011年1月6日木曜日

「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である」(邦訳原稿)

以下は、TED Talksのひとつ「「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である (Richard St. John: "Success is a continuous journey")」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。




2011年1月4日火曜日

「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である」(紹介)

自分が日本語に翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である (Richard St. John: "Success is a continuous journey")」

[TED2009, 3分55秒]

起業家・マーケッターであり、"サクセス・アナリスト"という肩書も持つリチャード・セント・ジョンによる短いトークです。自らの事業のアップダウンを例に引きながら、「成功は一旦なし遂げたらそれで終わりというものではなく、継続させることにこそ注力すべきである」と語られていきます。なるほどなぁと思いました。確かに、何かを成功させること、上手く行かせることに比べて、上手く行った後にどうするかということに対する関心はかなり低くなりがちだという気がします。その点をずばりと指摘したこのトークは、簡潔ながら印象に残るものでした。

トークの終盤で「成功するための8つの原則」が出てきます。これはPassion, Work, Focus, Push, Ideas, Improve, Serve, Persistを指し、セント・ジョンが500人以上の"成功者"をインタビューして抽出したものです。各項目の詳細は、彼が2006年のTEDで行ったもうひとつのスピーチ「成功者だけが知る、8つの秘密!(Richard St. John's 8 secrets of success)」をご覧いただくとよくわかります。こちらも簡潔でわかりやすいプレゼンです。僕が訳したものではありませんが、合わせてご紹介します。


[TED2006, 3分33秒]


<その他の関連リンク>
リチャード・セント・ジョンの公式サイト http://www.richardstjohn.com/index.smm.php
ツイッター:http://twitter.com/richardstjohn
著書 The 8 Traits Successful People Have in Common: 8 to Be Great」

2011年1月2日日曜日

オーガニックな方向へ

このところ、「社会のさまざまな側面でデジタル化が急速に進んでいる一方で、アナログとデジタルを共に使って、より身体性を感じられる体験や心情的な近さを覚えるつながりを上手く生み出し、それを楽しんでいる人が少しずつ増えて来ているのではないか」と感じる機会が度々あります。それは単なる懐古趣味やデジタルの否定ではなく、アナログとデジタル、リアルとバーチャルといった区分けに捉われない「オーガニックな価値観」とでも言えるものではないかと思っています。生活のスタイル(自然に親しみ、ゆったりと質素に暮らすこと/英辞郎 on the WEBより)や関係性(多くの部分が緊密な連関をもちながら全体を形作っているさま/コトバンク) としてのオーガニックを、今年はより自らの暮らしに取り入れていければ良いなと考えています。

デジタル化が利便性や効率を飛躍的に向上させたことは確かですし、自分も大いにその恩恵を受けています。しかし、同時に暮らしのペースが格段にスピードアップし、また自分が「オン」でいなければならない時間が増えたことも実感しています。これらは悪いことばかりではありませんが、効率一辺倒であったり、「何でもデジタルがいい」といったりする考え方には、個人的には染まり切れない部分もあります。

時と場合によってデジタルとアナログを使い分けるというのは、多くの人が行っている当たり前のことかもしれません。でも、特に昨年は自分にとって「非デジタル」な体験の印象が強い年でした。

2つほど例を挙げると、まず、「TEDx」のリアルなイベントに参加したこと。そこで出会った人たちとの交流の中で感じた刺激や高揚感は、良い悪いの話ではなく、TEDトークの翻訳とレビューをネットを介して行うのとはまた別種のものでした。次に、家からあまり遠くない場所にあるプレーパークに子どもを連れていくようになったこと。プレーパークは、子どもたちが既存の公園の枠組みに捉えられない自由な遊びを行えるようにと造られた場所です。"プレーリーダー"を中心とする大人たちが見守る中、かまどでの火焚きから本気の泥んこ遊び、小屋づくり、木登りetcが繰り広げられていきます。元々子育ては、身体性に富み豊かな感情と直に接する機会の多い活動だと思うのですが、その中でも特に、この言わば非常にアナログな場所が持つ力を強く感じました。ともするとメディアを通じた体験だけで満足したり、わかった気になったりしてしまいがちな中、リアルな体験から得られる刺激の豊かさに改めて気づいた年でした。

リアルな体験に出かけるのは、ある程度の手間や時間がかかるものです。でもそこからは楽しさや迫力がリアルなものとして全身に伝わってきます。参加の仕方によっては、人とのつながりも生まれます。仕事や雑事に追われてなかなか思うように時間やエネルギーを割くことができないことも多い中ではありますが、本やネット、テレビなどを通じた体験だけでなく、自らの志向性に近い活動を行う場には積極的に参加し、そこで得た刺激やつながりを広げていくことを大切にしたいと思います。

こうした体験は、デジタルの世界と結びつけることで一層豊かなものになるはずです。自分が関心を持つ分野についての情報を集めたり、参加した際の気づきや感想を共有したり、そこで知り合った人との交流を深めたり、あるいは運営側であればスタッフ同士での打ち合わせやコミュニケーションに使ったりということに、デジタルのツールは大いに役立ちます。デジタルがもたらす効率性や利便性の助けを得られるところはそれを活用しつつ、必要だと感じたことについては手間や時間を惜しまずに力を注ぐこと-アナログとデジタル、リアルとバーチャルの境界に捉われることなく、それぞれの長所を活かしながら自分の志向性に沿った体験やつながりを広げられるような1年にしていきたいと思っています。