東京からだとどうしても腰が重くなってしまうのですが、今年は「砂浜美術館」のコンセプトの生みの親であるデザイナーの梅原真さんの本を2冊読み、多少なりとも気分を味わうことしました。どちらも非常に面白かったので、1冊ずつ紹介していきます。
まずは梅原さん自身の手による作品集「ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景」です。
ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景 | |
梅原 真 羽鳥書店 2010-07-09 売り上げランキング : 99086 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
梅原さんは、高知県を拠点に、一次産業に関わる物品や企画のデザインを手がけている方です。目線をずらすことで、それまで気づかれなかった地域の産品が持つ魅力をあぶり出し、それを広く人々に伝えるという活動を続けています。一次産業にデザインをかけあわせて新しい価値を生み、経済を回すことで、その産業が生き延びるとともに、それに関わる地元の風景を残していくことができる - これが梅原さんの活動の源であることが、本書を通じて幾度も語られていきます。
砂浜美術館のコンセプト作りに加え、お茶や鰹、アイスクリームなど、梅原さんが手がけた産品のデザインワークとともに、それぞれにまつわるエピソードを紹介していくというのがこの本の構成です。当初書店で見かけたときは、写真で大きく扱われているデザインの紹介という側面が印象に残り、ちょっと高めの値段とも相まって失礼ながら購入には至らなかったのですが、後日手に取って読み始めると、あまりの面白さに一気に最後まで行きました。特に、各産品の開発や販売に携わった「人」に焦点を当てながら、梅原さんの主張や考えを織り交ぜつつ、デザインが生まれ完成するプロセスが語られる文章部分が秀逸です。
梅原さんが大切にしていることを本書から抜き出すと、例えばこんなキーワードが見えてきます。
「マイナスをプラスに変える力」
「情報を一つの濃縮された形にして、端的に生活者に受け渡すコミュニケーションデザイン」
「きっかけを掴んで商品をつくっていく力」
「バックできる力」
取り上げられたそれぞれの産品やデザインワークを見ながら、梅原さんの作品にはこれらの思想が太い軸として貫かれていることが実感できました。と同時に、上に述べたようなことは、地域の一次産業だけでなく、より広い分野で大切なことなのではないかとも感じました。特に、今の日本は、一次産業の問題に加えて人口の減少、経済の停滞、震災による大きなダメージなど、いろいろな困難を抱えています。その中で、これまで通りの開発や経済成長を最優先にし続け、「前へ前へ」と進もうとするやり方とは違うアプローチも必要とされているのではないかという気持ちになっている人も、少なからずいるように見受けられます。そのような中で、この本に書かれているような、視線をずらしながら、そして必要な時にはスイッチを「後退」にも入れながら、たとえマイナスのものであってもプラスに変えていこうとする姿勢が、個人にとっても組織に取っても、とても重要なのではないかという気がします。
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