2010年12月31日金曜日

「ゲーバー・タリー:子どもがすべき5つの危険なこと」(翻訳)

以下は、TED Talksのひとつ「ゲーバー・タリー:子どもがすべき5つの危険なこと (Gever Tulley on 5 dangerous things for kids)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。



2010年12月30日木曜日

「ゲーバー・タリー:子どもがすべき5つの危険なこと」(紹介)

自分が日本語に翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

ゲーバー・タリー:子どもがすべき5つの危険なこと (Gever Tulley on 5 dangerous things for kids)

[TED2007, 9分22秒]

ソフトウェアのエンジニアであるゲーバー・タリーが、自らがカリフォルニアで主宰するTinkering School (工作の学校)という子どもたち向けの課外キャンプでの体験をもとに、子どもが生きる力や創造性を身につけるために行うべきことを語ります。

トークの要旨は、こんな感じです。
「今の社会は子どもを過度に危険から遠ざけようとするため、かえって危険に対する子どもの察知力を弱めたり、危険もあるけれど役にも立つ道具の使い方を身につけることが難しくなったりしている。本当に危ないことにはならないよう配慮した上で多少危険な体験をさせることで、子どもたちは楽しみながら身の回りの環境をコントロールする術を学んでいく。」

自分も子どもを持つ親として、その通りだなあと実感します。日々の生活の中では、よほど意識をしていないとついつい「それは危ないからダメ!」と言ってしまいがちでもあるのですが。「何を、どこまでならやらせても大丈夫なのか」をその時々の状況に合わせて判断しながら、できる限り子どもの行動を自由にさせること。それは、親をはじめとする周りの大人たちの見識や能力に深く関わってくることなのだと思います。

ちなみに、このトークで"執筆中"と語られている「50 Dangerous Things」は、2009年に出版されました(こちら)。

また、タリーは2009年のTEDでも講演しているのですが、Tinkering School (工作の学校)での子どもたちの様子が語られるこちらのトークも非常に面白いです。こちらは僕が翻訳したものではありませんが、リンクを入れておきます。

ゲーバー・タリーが工作を通じて教える人生の教訓 (Gever Tulley teaches life lessons through tinkering)

[TED2009 4分08秒]

<その他の関連リンク>
ゲーバー・タリーのブログ: some things right
ツイッター:http://twitter.com/gever

2010年12月24日金曜日

クリスマスと身近なチャリティー

クリスマス前です。仕事帰りに渋谷の繁華街を通ったら、いつもはまず第一に「喧騒」を感じる街の雰囲気がきょうは何だか少し静かに、そしてにこやかに感じられました。自分は家に帰るだけだったのですが、その感じをいいなぁと思いながら歩いていました。

先日、知人から「チャリティーサンタ」という取り組みについて聞きました。東京近郊や各地の主要都市などで、クリスマスイブの夕方~夜間に、ボランティアの大学生が扮したサンタが来訪を申し込んだ家庭を訪れるというサービスです(プレゼントは、親が準備したものを当日来訪の直前にサンタさんに渡しておくんだそうです)。

http://www.charity-santa.com/

これが興味深いのは、サンタによる訪問を申し込んだ家庭は1000~2000円程度の"チャリティー金"を渡し、そのお金が途上国の子どもの教育の支援などに使われるという点です。訪問した日本の子どもたちを喜ばせ、それにより依頼した親を笑顔にし、そして途上国の子どもたちにも感謝される-上手い仕組みを考えたなあと感服しました。良いアイデアと実践を組み合わせたこうした活動は、すごく共感を覚えます。

そんなことを考えているうちに、思考がふっと別のところに飛んで、クリスマスとチャリティーをキーワードにしたiPhoneとかiPadのAppsなんてあれば面白いのにな~なんてことが頭に浮かびました。自分はクリエイターでもプログラマーでもないので具体的な何かがある訳では全くないのですが、100円とか200円のAppsの全額もしくは半額ぐらいをチャリティーに回すという原則でクリスマスやサンタクロース関連のちょっとしたソフトを販売する、というのは有りなんじゃないかと感じたのです。

(クリスマスに関係なく)NPOなどが無料のAppsを配布してそこから簡単に寄付ができるような仕組みを入れ込んでおく、ということは今でも行われています。でも、一般に金額が安く購入のハードルが低いというAppsの特徴を生かせば、有料でも比較的受け入れられやすいかもしれません。特にそれが商業目的でなく、売り上げが寄付に回るということであれば、一層そうなのではないでしょうか。もちろん、Appsの魅力次第というのは言うまでもないところで、そこに具体的なプランがない以上ここからは話を展開することができないのですが。でもクリスマス前に浮かんだこのアイデア、時間を見つけてもう少し膨らませてみても良いかもしれません。

2010年12月20日月曜日

ひつじ不動産「東京シェア生活」

これからシェア生活を始めたいとか思っている訳ではないけど、ちょっと気になっていたひつじ不動産の本を読みました。

東京シェア生活
東京シェア生活ひつじ不動産

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シェア生活用の物件に特化したひつじ不動産が監修し、都内にあるシェア住居の雰囲気や住民、デザイナーの声などを紹介したのがこの本です。

冒頭で、シェア住居の原則として2点が挙げられています。
「リビングルームやキッチンといった、入居者同士の交流を自然にうながす要素を持った共有スペースがあること。」
「原則として同居していない運営者が管理の最終的な責任を担っていて、入居者は各々家賃を支払うこと。」

このうちの2番目の項目が、シェア生活への注目を集める上で特に重要なのかなという気がしました。ひと昔前、自分が学生だった頃や、また留学していた時も、シェア生活をしている友人はいました。でもその多くは複数人数で住める広めのマンションや一軒家を友人・知人と共同で借りて住むという形でした。トラブルがあれば自分たちの間で解決しなければなりませんし、誰かが出ていくとなれば新しい同居人を探したり、またその人が見つかるまでは家賃を少ない人数で負担しなければいけなかったり、といった大変さがありました。

それがいいんだ、という人ももちろんいるでしょうが、第三者としての運営会社が物件のデザインや品質管理をしっかり行い、不満やトラブルの仲裁役としても機能してくれ、同居人数の増減によって家賃負担が変わったりすることもないという点は、シェア生活へのハードルを下げる上で大きな役割を果たしているはずです。

この本を読んでいちばん興味深く感じたのは、「若者以外は対象になるんだろうか」ということです。いまのシェア生活は学生から20、30代の独身者が主な対象になっていると思うのですが、例えばカップルや既婚者、子どものいる家族を対象にしたシェア住居にはどんな形が考えられるのか。また、日本では一定年齢以上になると単身赴任をする会社員も多いのですが、そうした家族持ちの単身層だとか、あるいは高齢の単身生活者などに向けたシェア住居というのはあり得るのか?

孤立社会とか無縁社会といった言葉も飛び交う中、「個」と「共」のエリアを新たな形で結びつけようというシェア住居が、今後そういう方向にも展開していくと面白そうだなと感じました。

2010年12月17日金曜日

Playing for Change ~ Imagine

以前にも書いたことのある、"United grassroots musicians around the world"とでも呼ぶべき音楽家たちのプロジェクトPlaying for Changeによる新録曲が、ネット上で公開されました。今回彼らが取り上げたのはジョン・レノンの「Imagine」。言わずと知れた超名曲です。

Imagine from PlayingForChangeFoundation on Vimeo.


今回も特筆すべきは、参加した多様な音楽家たちが心から楽しそうに、のびやかに歌ったり楽器を奏でたりしていることでしょう。「Stand By Me」「One Love」などの際もそうでしたが、このことがPlaying for the Changeによる名曲のカバーを、オリジナル版に匹敵するほど素晴らしい、特別のものにしているのだと思います。この曲を聴いて、音楽っていいなと改めて感じました。

2010年11月28日日曜日

「ローレンス・レッシグ:法が創造性を圧迫する」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ「ローレンス・レッシグ:法が創造性を圧迫する(Larry Lessig on laws that choke creativity)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。

「ローレンス・レッシグ:法が創造性を圧迫する」(紹介)

自分が日本語に翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

ローレンス・レッシグ:法が創造性を圧迫する(Larry Lessig on laws that choke creativity)


[TED2007, 18分59秒]

話者のローレンス・レッシグは、ハーバード大(講演当時はスタンフォード大)の法学者。邦訳もある「CODE」や「コモンズ」などの著書を通じて、また、クリエイティブ・コモンズの運動などを通じて、ネット上の創作活動と著作権について積極的に発言してきた人です。

このトークは、レッシグが2008年に原書を出した現時点の最新刊「REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方」で主張していることの内容をまとめたものだと言えます。デジタル技術を使って作成・配布されるユーザー作成コンテンツにおける”リミックス”を一方的に非合法だとするのではなく、それを今の時代には欠かせない表現のあり方のひとつと捉えて、商業面での制約と文化面で許容できる範囲を組み合わせていこう、といった趣旨の話がされていきます。

特筆すべきは、巧みな例を引きながら積み重ねられていく議論の明晰さです。このトークを翻訳してしばらくしてから「REMIX」の原書を読んだ時、TEDで話されている言葉の一部が、一言一句そのまま本にも収録されているのを見つけて驚きました。そしてそれは、話し言葉として聞いても、本に納められた文章として読んでも、全く違和感がないのです。内容の面白さはもちろん、論理の組み立て方を学びという意味でも非常に勉強になるトークです。

蛇足ですが、これは僕が初めて翻訳したTEDトークです。昨年の春、TEDがオープン翻訳プロジェクトを始めることを知りました。人に見せる翻訳などそれまでしたことがなかったのですが、すごく共感を覚え、思い切って翻訳に手を挙げたのがこのトークです。翻訳のレベルについてはいろいろとご意見もあるかもしれませんが、ここで一歩を踏み出したことで、その後のTEDトークとの関わり方がぐっと深くなりました。また、翻訳&レビューを通じた人とのつながりという点でも、自分の世界が大きく広がるきっかけになりました。なので、自分にとって非常に思い出深いTEDトークです。

※このトークの邦訳原稿は、こちらでご覧になることができます。

<関連リンク>
Lessig Blog (2009年8月から更新なし)
ハーバード大学でのプロフィールページ
・このトークと関連のある著書
REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方
REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方ローレンス・レッシグ 山形 浩生

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2010年11月24日水曜日

レイチェル・サスマン「世界で最も長寿な生物」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ、レイチェル・サスマン「世界で最も長寿な生物」(Rachel Sussman: The world's oldest living things)の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。

レイチェル・サスマン「世界で最も長寿な生物」(紹介)

自分が日本語に翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

レイチェル・サスマン「世界で最も長寿な生物」(Rachel Sussman: The world's oldest living things)


[TED Global 2010, 14分9秒]

世界を回って二千年以上生き続けている生物を写真に収めるというプロジェクト「The oldest living things in the world」に取り組む写真家の話です。スピーカーのレイチェル・サスマンは、屋久島の縄文杉を見てこのプロジェクトを思いつき、長寿の生物を探してグリーンランドから南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどを訪ねてきました。

そこでカメラに写し取られたのは、様々な形をした木々やサンゴ、苔などが、それぞれ工夫を凝らして数千年ものあいだ命をつないできた姿でした。レイチェルによると、動物の場合は記録に残っている最長寿のカメが175歳、アイスランド沖で見つかったしゃこ貝が405歳だと言いますから、植物の寿命は動物を圧倒していることがわかります。多様な形態や手段を用いて生き永らえてきた植物たちの強靭な生命力に感じ入りました。

The oldest living things in the world are a record and celebration of our past, a call to action in the present and a barometer of our future. - Rachel Sussman


※このトークの邦訳原稿は、こちらでご覧になれます。

「僕たち、こうして店をつくりました~独立開業のニュースタンダード」 井川直子 著

主に30代の、自ら店を構えてそれを軌道に乗せている若手料理人たちを取材し、彼らが持つ世界観や、修行時代から開店までの来歴、そして今に至る試行錯誤などをまとめた本です。

僕たち、こうして店をつくりました 独立開業のニュースタンダード
僕たち、こうして店をつくりました 独立開業のニュースタンダード井川 直子

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全部で9店が紹介されていますが、それぞれの店にかける料理人たちの思いや、それを実現するために取ってきた具体的な行動が、開店や改装に至る金銭面まで含め、バランス良く取材されています。この本を広く「起業もの」に含めるならば、最近読んだその系統の本の中では一番面白かった作品です。

この本に出てくる人たちが、志を持った料理人であり、また自らの店の経営者であるということを特に印象づけられた言葉を、いくつか抜粋・引用します。

「みんながワイワイやっているのを眺めながら、将来僕もこういう場を作りたいと思ったんです。楽しそうな人たちを端から見ているのが、僕は好きなんですね。」(三鷹バルの一瀬智久さん)

「"料理をつくる"ということを知らない人が経営する店は、何か食欲の根幹を刺激しない気がしていた」(アヒルストアの齊藤輝彦さん)

「三國シェフが世界を唸らせる人であるならば、僕は家族や友人や地元の人たちの目線で仕事をする人間。」(シエル・ドゥ・リヨンの村上理志さん)

「わざわざ足を運んでもらう店でなく、人がたくさんいる賑やかな場所で、そこに集まる人たちに気軽に来てもらう店をつくろうと思いました。」(パッソ・ア・パッソの有馬邦明さん)

もうひとつこの本を読んで感じたのは、16~17歳ぐらいで「将来は自分の店を持つ」と心に決め、そのために必要な知識やスキルを長期的に見据えながら就職する店を決めたりイタリアやフランスなどへ修行に赴いたりする、といったプロセスを一つずつ積み上げてきた人が多いんだなということでした。料理人の世界では当たり前のことなのかもしれません。でも、会社員家庭に育ち、普通に大学を卒業して就職するという道を辿ってきた自分にとっては、彼らが若いころから将来への夢をはっきりと描いていること、そしてそれを実現するために計画的に自らを磨きあげていることにある意味驚きを感じました。それが"料理人"と"会社員"という環境的なものなのか、あるいは個人的な資質なのかはわかりませんが。

料理人の世界、特に自らの店を持つということは自分の腕で勝負するということであり、まさにプロフェッショナルの世界なのだな、と強く感じました。

2010年11月18日木曜日

TEDxTokyo yz

TEDxTokyo yz - Theater - に参加してきました。

ヒューマンビートボクサーのDaichiさんが奏でるベースやドラムの「一人多重演奏会」からピースボートの小野寺愛さんによる出産と子育ての話、そして南カリフォルニア大のシネマスクール出身の落合賢さんが語るコミュニケーションとしての映画作りなど、トークもパフォーマンスも存分に楽しんできました。

TEDの生のイベントに参加するのは今年のTEDxTokyo (運営スタッフとして参加)以来2度目でしたが、スピーカーや他の参加者たちとリアルな場を共有することで、そこから得られる感動やインスピレーションが何倍にも増幅されるなということを、今回も強く感じました。

もちろんそれは、会場が持つ雰囲気や、参加者をくつろがせ、対話が生まれやすい空気を作る運営スタッフの力量によるところも大きいはずです。でも同時に、「この場所をより面白い場所にしていこう」という意識を持った参加者が多かったことも大きな理由の一つだと思います。

また、TEDトークのライブ・パフォーマンスはウェブ上の動画で見るとあまり目立たないことが多いように感じるのですが、会場で目の当たりにすると、演者の肉体の動きや息遣いなどがそのまま伝わってきて、ものすごいパワーを発しているものだということも、改めて感じました(TEDxTokyoでは、シルク・ドゥ・ソレイユがそうでした)。

トーク終了後のパーティも含め、ワクワクするような刺激をたくさん受けた夜でした。

2010年11月9日火曜日

「クリス・アンダーソンが語るTEDのビジョン」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ、 「クリス・アンダーソンが語るTEDのビジョン」(Chris Anderson shares his vision for TED)の、拙訳による日本語訳文です。このトークについての紹介はこちらをご覧ください。

2010年10月28日木曜日

「クリス・アンダーソンが語るTEDのビジョン」(紹介)

自分が日本語に翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

前回はTEDのキュレーター クリス・アンダーソンが今年のTED Globalで行ったトークを紹介しましたが、彼は以前にも一度TEDの場で話をしています。それがこちらです。

「クリス・アンダーソンが語るTEDのビジョン」(Chris Anderson shares his vision for TED)


[TED 2002, 12分52秒]

これは2002年、クリスがTEDの運営を創立者のリチャード・ワーマンから引き継ぐに当たって、自らの来歴とTEDの目指すビジョンを語ったものです。出版社を立ち上げた起業家としての成功とドットコム・バブル崩壊後の苦境、そしてそれを乗り越えた後に残ったのがTEDのような場に注力しようという思いだった、といったことが語られています。

クリスはTEDの創設者ではありませんが、TED Conferenceで語られる講演をウェブを通じて公開したり、オープン翻訳プロジェクトを始めたりといった「TEDのオープン化」は彼がTEDのキュレーターになってから推し進められてきたものです。そのオープン化の原点が語られているとも言えるこのトークは、TEDに興味を持つ人にとって一見の価値があるものだと思います。

※クリス・アンダーソンの2010年のTEDトークはこちら
クリス・アンダーソン「ウェブ上の動画が後押しする世界のイノベーション」

2010年10月24日日曜日

クリス・アンダーソン「ウェブ上の動画が後押しする世界のイノベーション」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ、 クリス・アンダーソン「ウェブ上の動画が後押しする世界のイノベーション」(Chris Anderson: How web video powers global innovation)の、拙訳による日本語訳文です。このトークについての紹介はこちらをご覧ください。

クリス・アンダーソン「ウェブ上の動画が後押しする世界のイノベーション」(紹介)

自分が日本語に翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

クリス・アンダーソン「ウェブ上の動画が後押しする世界のイノベーション」
(Chris Anderson: How web video powers global innovation)

[TED Global 2010, 18分53秒]

このTEDトークは、TEDのキュレーター、言わば運営者であるクリス・アンダーソン(註・「Wired」の編集長とは別人です)が今年イギリスで行われたTED Globalで話したものです。オンライン動画が持つ大きな可能性への期待と絡めて、TEDのビジョンが静かな口調で、しかし情熱的に語られています。

"言葉だけ"や"写真だけ"に比べて人々に訴えかける力を強く持つ「動画」を「オープン」に広めることで、それに興味を持つ人々が自律的に優れたものを見つけ出し、自らもそこから学んで「イノベーション」を生み出していく― このトークで語られているサイクルは、彼自身がTEDトークで実証してきたことでもあります。

TEDに関心を持つ人、また個人として・組織としてオープンな学びやイノベーションを進めていきたいと考える人には、是非見ていただきたいトークです。

※邦訳の全文をこちらのページに載せましたので、ご興味のある方はあわせてご覧になってみて下さい。

2010年10月22日金曜日

「イメージのかけら」を大切にするということ

詩人・長田弘さんの対談集『問う力 始まりのコミュニケーション』を読みました。2005年から2008年の間に、岡田武史さん、ピーター・バラカンさん、桂歌丸さん、隈研吾さんなど、それぞれの分野で活躍する11人の方と長田さんが対談をした記録をまとめたものです。

問う力 始まりのコミュニケーション―長田弘連続対談
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自分の中では、何となく詩人というのは「自己との対話」を大事にする人なのかなという印象を勝手に抱いていたのですが、ここに記されている「他者との対話」も非常に面白いものでした。

長田さんは、コミュニケーションとはシティズンシップを日々に滋養するもので、「自ら問う」そして「自らを問う」ことで不断に支えられなければならないものだと言います。それが、上に書いた"自己との対話"、"他者との対話"につながるのだと思います。

さまざまな視点から語られるコミュニケーションの形がこの本の大きな魅力ですが、印象に残った一節をひとつ挙げるのであれば、映画監督の是枝裕和さんとの対談中に長田さんが述べた次のような言葉です。

「どんな表現も、最初はあるイメージからスタートするんだと思う。ストーリーからでなく、イメージから出発するんですね。それで最後にのこるのもまた、イメージなんですね。」

これは、以前ジブリ美術館で見て心に残っていた「空想と予感、そしてたくさんのスケッチ、イメージの断片。その中から、映画の核となるべきものが見えてきます。」という言葉と見事に重なっています。最初に現れるのは、空想の思いつきや1枚の写真で切り取られたようなイメージ。そこからストーリーや映画など、あらゆる表現が生まれてくるということを、どちらも述べているからです。

自分の中にでもそうした瞬間的なイメージが浮かぶことはあります。でもそれは、小説や映画のように連続した流れを持つものとはかけ離れたものだと思っていました。しかし、上のような言葉を見ると、両者は決して断絶しているものではないことがわかります。

空想やイメージをいかにして大切に育み、他にもあるはずのイメージの断片たちとつなぎ合わせていくのかというところに、表現における創造性があるのかもしれません。

2010年10月14日木曜日

ジョージ・スムート「宇宙のデザイン」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ、 ジョージ・スムート「宇宙のデザイン」(George Smoot on the design of the universe)の拙訳による日本語訳文です。このトークについての紹介はこちらをご覧ください。

ジョージ・スムート「宇宙のデザイン」(紹介)

先日翻訳したTEDトークの紹介です。

ジョージ・スムート「宇宙のデザイン」(George Smoot on the design of the universe)


[Serious Play 2008, 18分55秒]

※邦訳の原稿はこちら

ジョージ・スムートはアメリカの物理学者です。UCバークレーの教授であり、2006年のノーベル物理学賞の受賞者でもあります。

このトークでは、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げなどで可能になった「深宇宙」探査で得られた知見をもとに、宇宙がいかにして今あるようなデザインやパターンになったのかということが語られます。突き詰めていくとものすごく難しい話なのだと思いますが、写真やイラストを使いながら説明されるのでイメージが掴みやすいと思います。

宇宙の話を聞くと、その桁外れなスケールの大きさにいつも圧倒されます。そこに想像を遥かに超える世界が広がっていることが感じられるからです。でも、身の回りのことばかりに時間や関心を振り向けてしまいがちな日々の暮らしの中で、時折このようなことに思いを馳せるのは、視点を変えるという意味でも、自らを見つめ直すという意味でも、大切なことなのではないかと思います。

(関連サイト)
George Smootが主催する研究チーム:Smoot Group
著書
宇宙のしわ―宇宙形成の「種」を求めて〈上〉
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2010年10月5日火曜日

ホクレア号の話

渋谷のパタゴニアで行われた、ハワイの伝統的な航海カヌー・ホクレア号の話を聞いてきました。2007年にホクレアがハワイからミクロネシアを経て日本までやって来た時の模様を記録した、吉田清継さんによる映画「アロハ!未来」を見て、それからゲストとして参加したホクレアのナビゲーター:チャッド・パイションさんと、もう1人、名前を忘れてしまったけれど同じくホクレアのクルーである女性の方の話がありました。

良い映画、素敵な話に囲まれた、シンプルでぜいたくな時間でした。

ホクレアは、地図やGPS,六分儀といった近代的な器具を一切使わず、太陽や星の動きや位置、潮の流れる方向、風、波の形、そこにいる生き物(鳥や魚など)から進路を決める、伝統航法を行います。そこでは、訓練を積んだナビゲーターの存在が非常に大きな役割を果たすことになります。

そんな数少ないナビゲーターの一人であるチャッドさんの話で、「なぜ航海するのか」と質問された時に、「自分は偉大な能力を持った先人たちの後を継ぐ者だから航海を始め、そして今は、次の世代に自らの経験や能力を引き継ぐために航海している」といった答えをしていましたが、"自分のため"ではなく、世代を超えて受け継ぎ受け継がれしていくバトンを自分は大事に預かっているのだ、という姿勢がすごく感じられたところが印象的でした。チャッドさんは、2007年の航海の途上、ミクロネシアのサタワル島でハワイの航海カヌー復活に決定的な役割を果たしたマウ・ピアイルグからPowという航海術師の称号を与えられましたが、それについても、「称号を得たということは、後に続くものにそれを継承する責任を得たということだ」とおっしゃっていました。

また、もうひとつ印象に残ったのが、ハワイでの伝統航法ナビゲーターの第一人者として知られるナイノア・トンプソンがホクレアの出航前に述べた言葉です。

I know, for sure, that we will be in a storm. The question is, "Are you ready?"

これはホクレアのクルーに向けた言葉ですが、自分にとっても鋭く問いかけられているような気になりました。これからの暮らしの中でも、きっと様々な「嵐」がある。突然現れるものも、自ら突っ込んでいかなくてはいけないものも。そうしたいろんな「嵐」に、立ち向かう準備はできているか?と。

2010年10月3日日曜日

ジブリ美術館

ジブリ美術館に行ってきました。自分は2度目だったのですが、今回も満喫してきました。この美術館の魅力は、宮崎駿さんの映画のキャラクターやシーンをさまざまな形で再現していたり、作品づくりの一端を垣間見ることができるようになっていたりする展示だけではありません。照明や窓ガラスのステンドグラス、天井に描かれたイラスト、そしてドアや水道の蛇口に至るまで、丁寧にデザインされ尽くした空間が生み出す雰囲気もまた、素晴らしいものがあります。ディズニーランドのような場所とはまた違う形で、ジブリ美術館はひとつの世界観を作り上げているのだと感じました。

きょう特に印象に残ったのが、”映画の生まれる所”というコーナーにあった、「空想と予感、そしてたくさんのスケッチ、イメージの断片。その中から、映画の核となるべきものが見えてきます。」という言葉です(その場で書き写した訳ではないので細部は違ってるかもしれませんが)。その言葉どおり、部屋を模したこの場所には、たくさんのおもちゃや本、骨とう品や、スケッチ画があり、頭の中の思いつきや想像がひとつの作品になっていくまでのプロセスの一端が感じられました。と同時に、ふとした瞬間にポッと湧き出る空想やイメージの断片を、その場限りのものではなく、記録し広げていくことで、映画以外でもいろいろと面白いことにつながっていくのではないかという気がしました。

2010年9月27日月曜日

ウェブ上に広がるオープンな「学び」の環境

帰りの駅で、キオスクに1冊残ったクーリエ(11月号)を買いました。今月の特集は、ネット上で最先端の情報や知識を得るための「知的生活法」についてがテーマです。

以前に非常に興味深く読んだ、FAST COMPANY誌のTEDの記事"How TED Connects the Idea-Hungry Elite"(原文はこちら)の邦訳を始め、MITのオープンコースウェアに始まる大学の授業の無料公開やニュース・アグリゲーターの紹介など、面白い記事がたくさん載っていました。

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クーリエでは特集の冒頭で「情報収集力」という言葉を使っていました。でも、梅田望夫さんと飯吉透さんの近刊「ウェブで学ぶーオープンエデュケーションと知の革命」でも一部重なる内容が取り上げられていたように、これらはただの「情報収集」よりもう少し広く、「ウェブ上での学びや知」について生まれつつある大きな潮流を扱っているのではないかという気がしました。

ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命 (ちくま新書)
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star「ウェブで学ぶ」から学ぶ
starオープンエデュケーションの進化に驚嘆
starアメリカでのオープンエデュケーションの実状はよくわかるが...

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梅田さんと飯吉さんの本が真正面から触れ、クーリエの特集が取り上げ、そしてTEDのオープン翻訳プロジェクトやTEDxイベントがこの1年で大いに盛り上がってきたことが示しているように、ネットを使ったオープンな学びの環境が確実に整備されてきています。それは非常にワクワクするようなことであると同時に、その最先端の動きが英語圏で起きていることに、多少ならずとも羨ましさと残念さを感じます。ネイティブ並みの英語力を持たない自分にとっては、そうした環境を効率的に利用しつくすことができないからです。

でも、語学力のことを嘆くだけではどうにもならないことも分かっています。このような状況の中で、自分はいかにしてウェブ上の学びの環境と接するべきかということを見定めなければならないなと感じています。

2010年9月1日水曜日

折りたためる車

ハイブリッドカーや電気自動車の開発競争が本格化してきましたが、そんな話を聞くたびにMITのメディアラボの研究者たちが数年前に考案した「City Car」と呼ばれる“折りたためる小型電気自動車”のことが思い浮かびます。

詳しいコンセプトなどはこちらのMITのサイトからもご覧になれますが、Youtubeにアップされているイメージ動画を見ていただくのがわかりやすいかと思います。


これは、今の乗用車に取って代わるものとして考案されたものではありません。バスや電車などの大量輸送機関と組み合わせて大都市の交通をスムーズにしようという狙いのもとに考えられた車です。

バス・ターミナルや地下鉄の駅付近にCity Carのレンタル・ステーションがあり、そこから先は小型でエネルギー消費や環境への負荷が少ないこの車を使う。使用後は再びレンタル・ステーションに車を返し、折りたたまれている間に充電される―というイメージです。

こういう車を実際に導入するためには都市計画を根本的に見直さなければならないので、実現へのハードルは決して低くはないでしょう。でも、いずれ先陣を切って取り組む都市がきっと現れると思います。

2010年8月30日月曜日

ロジャー・リドリー

先日紹介した(こちら)Playing for Changeによる「Stand By Me」の演奏はロサンゼルスをベースに活動していたストリート・ミュージシャン Roger Ridley(ロジャー・リドリー)のパフォーマンスがベースになっています。

リドリーの歌う「Stand By Me」をサンタモニカで聴いたことが世界のミュージシャンを結ぶPlaying for Changeのコンセプトにつながっていったと制作者が回顧しているように(こちら)彼はこのプロジェクトで非常に重要な役割を果たした人物ですが、2005年に亡くなっています。

そのソウルフルな歌声に惹かれて「どんな人なんだろう」と彼のウェブサイト(こちら)を訪れた時にそのことを知ってとても残念だったのですが、プロフィールにあったひと言も深く印象に残りました。冒頭のところで、「自分は『喜び』を与える仕事に就いているんだ(I was in the "JOY" business)」と書かれていたのです。

「Joy business」という言葉はあまり聞き慣れないものですが、頭の中で反芻するうちにすごく素敵な言葉だなあと思うようになりました。よく使われる「エンターテインメント・ビジネス」がより商業面を強調しているように感じられるのに対し(良いとか悪いということではなく、例えばマイケル・ジャクソンに代表されるように)、「ジョイ・ビジネス」という言葉はより深く、より純粋な”喜び”というものを想起させます。そして、ロジャー・リドリーが毎週末ラスベガスから片道5時間近くをかけてサンタモニカの路上まで演奏に来ていたということを知り、彼がしていたのは正に「ジョイ・ビジネス」だったんだなということを強く感じたのです。

そんなロジャー・リドリーの演奏をPlaying for Changeのチームが収めたもうひとつの曲があります。サム・クックの「Bring It on Home to Me」です。 「Songs Around the World」のCDには入っていませんが、これもソウルの名曲中の名曲です。ぜひご覧になってみてください。

2010年8月29日日曜日

Playing for Change ~ One Love

前回のエントリで書いたPlaying for Changeの曲で、もうひとつすごく気に入っているものがあります。ボブ・マーリーの「One Love」です。



こちらも、曲の素晴らしさはもちろんのこと、「音楽が本当に好きなんだな~」という感じが伝わってくる様々なミュージシャンたちの競演の様子が印象的です。前回の「Stand By Me」とともに、音楽が持つパワーを感じるクリップです。

2010年8月28日土曜日

Playing for Change

巷にはカバー曲があふれていますが、それがオリジナルを超えることは稀だと思います。特にオリジナルが有名であればある程、また自分がそれに親しんでいればいる程、新たに聞くバージョンに対する評価は厳しくなりがちです。

自分にとってそんな曲のひとつが「Stand By Me」です。ジョン・レノンのバージョンも、忌野清志郎のバージョンも良いけれど、やはり同名映画の主題歌になったベン・E・キングの歌には及びませんでした。

でも、Playing for Changeによるこの「Stand By Me」はすごく良い。オリジナル以上、なのかどうかは何とも言えませんが、ここまで包容力とソウルを感じさせる「Stand By Me」は初めてかもしれません。



Playing for Changeは、音楽を通じて世界をより良い方向に変えていこうというプロジェクトで、世界各地のストリート・ミュージシャンなどがコラボレーションするという形でアルバムにまとめ上げられたのが「ソングス・アラウンド・サ・ワールド」のCDです。

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ここで紹介した「Stand By Me」もその中の1曲です。ここでは、ロジャー・リドリーの歌をベースにして世界中から30人以上のミュージシャンたちがバーチャルにセッションに参加して完成したものです(それがどういうものなのかは、動画を見ていただければわかると思います)。コンセプトの斬新さにも惹かれますが、そうして出来た素材を編集し、音を整理してひとつの作品にした制作者の力量にも脱帽しました。このCDは必聴ものです。

2010年8月26日木曜日

きりのなかのサーカス

ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)というイタリアのデザイナーがいます。10年ほど前に亡くなっているのですが、とても独創的な絵本や子ども向けのおもちゃを生み出したことでも知られています。

彼の代表作のひとつである「きりのなかのサーカス」という絵本(初版1968年)の邦訳が、今年9月にフレーベル館から復刻出版されました。しかも訳したのは谷川俊太郎さん。最近それを知ってさっそく読んでみたのですが、デザインのセンスと遊び心にあふれるすごく素敵な絵本でした。

きりのなかのサーカス
きりのなかのサーカスBruno Munari

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ページの一部が切り取られていたり穴が開いていたりと仕掛け絵本の一種なのですが、イラストと切り抜きや穴などを組み合わせたページの構成や鮮やかな色使いが本当に斬新で、こんな絵本ってあるんだという驚きが最初の感想でした。トレーシングペーパーを使って表現される「霧の中」の感じも秀逸です。大人でも十分に楽しめますが、子どもが読めばさらに感受性が刺激されるのではないかと思うような本でした。

2010年8月25日水曜日

ジョン・カサオナ「密猟者から世話人へ」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ、 ジョン・カサオナ「密猟者から世話人へ」(John Kasaona:How poachers became caretakers)の拙訳による日本語訳文です。このトークについての紹介はこちらをご覧ください。

2010年8月24日火曜日

ジョン・カサオナ「密猟者から世話人へ」(紹介)

僕が翻訳を担当したTEDトークの日本語字幕がつい最近公開されました。自分が訳したもの、気に入ったものなど、TEDトークの紹介をしていきたいなと前から思っていたのですが、このトークから始めることにします。

ジョン・カサオナ「密猟者から世話人へ」(John Kasaona:How poachers became caretakers)


[TED2010, 15分46秒]

※邦訳の全文はこちらを参照。

ジョン・カサオナは、アフリカ大陸の南西部にあるナミビアのヒンバ族出身で、コミュニティに基盤を置いた野生動物の保護を通じて人々の暮らしと動物たちの生活環境をともに向上させようと活動しています。

このトークでは、「アフリカからの成功事例」として、自らの取り組みを紹介しています。

"このところアフリカに関する話といえば、飢餓やエイズ、貧困や戦争のことばかりです。でも私がこれから話したいのは、成功についての話です。"


と冒頭で切り出してから、終盤で

"こうしたアフリカからの良い知らせを、私たちは声を大にして伝えたいのです。"


とまとめるまでの間に、幼少期に大草原で受けた父の教えから内戦や飢饉の時代、そしてコミュニティが自然との関係を取り戻すことで再生していく様子が、情感と情熱、そしてユーモアたっぷりに語られていきます。

話の内容自体もすごく面白いのですが、冒頭でぎゅっと観客の心をつかみ、笑いで皆を和ませ、苦難の時代を乗り越えて高らかに成果を語り上げていくというプレゼンの手法も見事なものです。「ナミビアがアフリカの手本となり、アフリカがアメリカの手本となる」-いい言葉だと思います。ぜひご覧になってみて下さい。

なお、上にもリンクを入れましたが、邦訳の全文をこちらのページに載せましたので、ご興味のある方はあわせてご覧になってみて下さい。

2010年8月22日日曜日

TEDのオープン翻訳プロジェクト

TEDトークの講演の翻訳して日本語の字幕を付けるというプロジェクトにボランティアとして関わり始めてから、1年余りが経ちました。「まだ1年か」という気持ちと「もう1年か」という気持ちが両方ありますが、これを始めたことで自分の世界が大きく広がったなという気がします。きょうはそんなTEDのことを少し書いてみます。

TEDは、Technology, Entertainment, Designを略したものです。アメリカのカリフォルニアを本拠として、これら3つの分野に加えて建築、教育、起業、科学、冒険、医療などさまざまな分野で最先端をゆく人々をスピーカーとして招き、「1人18分以内」というルールの下で自らの情熱やビジョンを語ってもらうというカンファレンスを毎年開いています。最近では「TEDx」という、TEDのコンセプトやスタイルに則った独自開催イベントが世界各地で開かれるようにもなってきています。例えば日本では今年、2回目となるTEDxTokyoが5月に、そして初開催となるTEDxTokyo yzが6月に開かれました。

僕も本場のTEDカンファレンスに参加したことはありませんが、そんな人でもスピーチを楽しむことができるよう、TEDのウェブサイト(http://www.tedxtokyo.com/)では講演の動画を無料でオンデマンド配信しています。毎週数本ずつ、新しい講演がアップされて行きます。そして、これがものすごく面白いのです。

上に挙げたような多彩なテーマの中で、それぞれのスピーカーが抜群のアイデアやそれを実現するための方法、ビジョンなどを次々と提示していきます。スピーカーの知性と洞察力、情熱、実行力などが、しばしば優れたユーモアのセンスに包まれて語られるのです。僕は、TEDトークからから大きな刺激を受けたり元気づけられたりしたことが数知れずあります。

講演は基本的に英語で行われているのですが、言葉の壁を超えるために有志を募って翻訳を進めようと昨春始められたのがTEDオープン翻訳プロジェクトです。これを書いている現在、日本語では311のトークに字幕が付けられています(こちらを参照)。

オープン翻訳プロジェクトのことを知った時は、とても興味を持った半面、ネイティブ並みの英語力がある訳ではなく翻訳の訓練を受けたこともない自分が参加しても大丈夫なんだろうかという気持ちにもなりました。でも、自分が感銘を受けたトークを自分の力で日本語に訳すことができる機会があるということに大きな魅力を感じて参加の申し込みをしました。良い決断だったと思います。自分の場合はひとつのトークを訳すのにかなりの時間がかかりますが、やはり動画を見るだけの時と翻訳をする時では、そのトークへの関わりの度合いが大きく異なるからです。何度も何度も英語の原稿や動画を見直すうちにわかってくること、というのもある気がします。また、翻訳は"翻訳者"と"レビュアー"のペアで進むのですが、自分の訳に別の人が目を通してくれることで、訳の間違いに気づかせてくれるだけでなく、表現などの勉強にもなるというのもメリットのひとつだと思います。

このブログでも、TEDトークのお気に入りの講演や、自分が翻訳やレビューを担当したものなどを少しずつ紹介していこうと思っています。

2010年8月21日土曜日

鶴見良行『東南アジアを知る - 私の方法 - 』(1995)

家族で実家に帰省中、長らく置きっぱなしにしていた本を少し処分することにしました。でも、予想通り、本の整理というのはなかなか進みません。本棚を眺めていると気になる本が次々に出てきて、パラパラとめくったりしているうちに時間が過ぎてタイムアウトになってしまうのです。

ということで今回も本の量はほとんど減らなかったのですが、改めて読み直したい本がいくつか出てきました。そんな本を紹介します。

まずは、鶴見良行さんの『東南アジアを知る』。東南アジアの特に島嶼部を歩き回り、ナマコやエビ、バナナなどを通して人々の暮らしやアジアと日本との結びつきを考察してきた著者の、研究の方法論や立ち位置などが記された本です。
東南アジアを知る―私の方法 (岩波新書)
東南アジアを知る―私の方法 (岩波新書)鶴見 良行

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star彼は、年を取ってから仕事をした
star裸足の研究者・鶴見良行の軌跡。
star筆者の偉大さに触れられる本です。

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この新書は鶴見さんが亡くなった後に発行されたいわば遺稿なのですが、僕にとってはこの本が初めて接する鶴見さんの本でした。自ら現地に飛び込んで取材や調査したことと、学問的な知識やモノの見方を突き合わせて独自の視点を生み出していく様子が鮮やかに描かれていて、興奮しながら読み進めたことを覚えています。

発行から15年が経つ今でも、その瑞々しい内容は全く色あせていませんでした。まだ途中までしか再読していませんが、特に気になった一節を引用します。

知は知だけで力になることはありません。知は運動と結びついて初めて力となります。日本の今日の運動の多くは(中略)被害者の運動です。市民運動は、こうした性格を持っています。痛みがあるから運動には馬力があるが、力だけでは暴力になりかねない。無知は恐ろしいのです。」(p.71-72)


なるほど、と感じました。ただ、後半部分については、最近特に若い人たちの間で生まれつつあるムーブメント-例えばTEDxTokyo、半農半X、新しい公共、Green Drinks Tokyoだとか-には、被害者意識から始まったのではないものも多くあるように思います。「個別の案件について自分たちが被ったマイナスを補償してほしい」という動機よりも、「現状からプラスに持っていこう」あるいは「社会が全体としてマイナスの方向に向かっているからそれを変えていこう」といったような動機なのではないかと。このあたりのことはまた機会をとらえて考えてみたいと思います。

2010年8月20日金曜日

Entrepreneurs can change the world

「Entrepreneurs can change the world」という2分余りの動画を見ました。誰しもが幅広い好奇心と挑戦心を持つ子ども時代を引き合いに出しながら、人は誰でも起業家(Entrepreneur)になることができる、そして各々が自らの中にある起業家精神(Entrepreneurship)を解放することで社会をより良い方向に変えることができる、と説く動画です。

シンプルな動画ですが、言葉に力があり、とても勇気づけられました。印象に残った一節を引用します。

「Turbulence creates opportunities for success, achievement, and pushes us to discover new way of doing things.」"混乱から成功と達成に至る機会が生まれ、物事を成し遂げる新たな道筋が発見される"、といった感じでしょうか。

他の部分も英語ですが、そんなに難しくはありません。すごくお薦めなので、是非ご覧になってみて下さい。

2010年8月18日水曜日

はじめに

Frontierという言葉には、"未開拓の分野"だとか"最先端"、"国境"、そして"辺境"といった意味があります。このブログでは、大きな意味での「frontier」ではなく、中にはそうしたものも含まれるかもしれませんが、自分にとっての新しい気づきや共感など、日々の暮らしの中で出会った身の丈サイズの「frontiers」について書き記していくつもりです。今までパラパラと余所に書いたままになっていたエントリなどもこちらにまとめていこうと思っています。よろしければ、ご覧になってみて下さい。