2010年11月24日水曜日

レイチェル・サスマン「世界で最も長寿な生物」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ、レイチェル・サスマン「世界で最も長寿な生物」(Rachel Sussman: The world's oldest living things)の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。




この奇妙な形をした植物はヤレタです。岩を覆う苔のように見えるのは 何千という枝でできた灌木です。それぞれの先には小さな緑の葉がかたまりになっていて、非常に密集しているので その上に立つこともできます。この個体はチリのアタカマ砂漠にあり 樹齢3,000年ほどです。パセリの近縁種でもあります。

この5年間 生物学者たちと共同で研究し 世界中を回りながら 2,000年以上生き続けている生命体を探してきました。芸術と科学にまたがるプロジェクトです。環境という要素もあります。 日常の時間軸から踏み出し 時間の尺度をより深く考えるための手段を作りたいとも思っています。最低でも2,000年としたのは 西暦の始まりを開始点として そこから遡って行きたかったからです。

これは縄文杉です。屋久島という孤島に自生しています。この木がプロジェクトを始めるきっかけの一つになりました。写真を撮るために日本を旅行していた時 樹齢2,180年だというこの木のことを聞き そこに行かねばと思いました。その後ニューヨークの自宅に戻ってから このプロジェクトを思いつきました。ゆっくりと立ち現われてきたのです。自らの芸術と科学 そして哲学に対する 関心を一つにまとめたいと 私は長いこと願っていました。だから ひらめいた時には準備ができていたのです。調べ始めると 驚いたことに 芸術であれ科学であれ この取り組みは行われたことのないものでした そして単純にも私は 世界中の長寿な種族を扱う 科学の分野すらないということに 驚いたのです。

今見ているのは チズゴケです。3,000年ほど生きています。グリーンランドに生えていますが 地衣類にとっては遥か遠い場所です。グリーンランドを訪れるのは 極北を旅するだけでなく 過去への旅行をしているようなものです。これまでに訪れた中で 最も原初的で遠い場所でした 特別な体験もしました。ボートで遠くのフィヨルドに行って下ろされた時 待ち合わせをしていた考古学者が どこにもいませんでした。SMSやメールを送ることもできません。本当に一人ぼっちだったのです。結局は何とかなりましたが 取り残されたときは人間の微力さを感じました。数日後 キャンプ近くの氷河から流れる小川で釣りをしました。あふれんばかりに魚がいて 30センチのマスを素手で手づかみすることができました。地球が今よりも無垢だった時代を訪れたかのようでした。そこには地衣類もいました。100年で1センチしか育ちません。こうした植物を見ると、人間の寿命を新たな視点で考えることができます。

今見ているのは東オレゴンの上空から撮った写真です。「アルミラリアの死環を探して」という見出しは 不気味に感じられます。アルミラリアは捕食性のキノコです。ある種の木を殺します。より温和な言い方をすれば「とてつもなく大きなキノコ」として知られています。世界最大級の生命体の一つなのです。キノコを研究する生物学者とともに 地図とGPSの座標を入手し 飛行機をチャーターして 死環を探し始めました。アルミラリアが木を殺してできる 円形の模様です。この写真に写っているかはわかりませんが 地表にはアルミラリアがあります。地面に行くと、アルミラリアがこの木を襲っているのがわかります。樹皮と木の間に見える 白い物質は アルミラリアのフェルト状の菌糸です。水分と栄養分の流れを阻害して ゆっくりと木を 絞め殺しているのです。この戦略はうまく働いてきました。これは2,400年も生きています。

地中から海中の話に移ります。トバゴの脳サンゴです。2,000年ほど生きています。深海への恐れを克服して見つけました。水深18メートルほどのところにあります。サンゴの表面が傷ついています。石鯛の群れが 食べたのです。死なずに済んだのは幸運でした。最近起きた石油流出事故の影響も受けていません。とはいえ 地球で最も昔から生きている生命体の一つを簡単に失っていたかもしれないのです。事故がもたらす災厄の全貌はまだわかりません。

これは地球で最もひっそりと 命をつないでいる生き物だと思います。ユタ州にあるアメリカヤマナラシのクローンの集団です。8万年も生きてきました。森のように見えますが 実は1本の木です。一つの巨大な根が張っていて それぞれの木は そこから現れた幹なのです。ここにあるのは 巨大な一つにつながった 同一の遺伝子を持つ個体で 8万年も生きています。この木は雄株で 理論上は不死です。

(笑)

こちらもクローンの木です。樹齢9,550年ほどの トウヒですが 赤ちゃんのようなものです。木を守るため 生息地は明かされていません。この木を発見した生物学者と話しましたが 真ん中に見える細長い成長部分は 恐らく気候変動によるものだろうと言っていました。山頂が暖かくなってきているため 植生が変わっています。植物と直接に接しなくとも 被害を及ぼすことは 可能なのです。

これはフォーティンゴールのイチイの木です。冗談です。こちらがフォーティンゴールのイチイです。 (笑) 羊の写真を入れたのは 私のプロジェクトに動物はいないのかとよく聞かれるからです。サンゴを除けば 動物はいません。最長寿のカメが何歳か知っていますか? 推測では?

(聴衆:300歳)

300?いいえ 最長寿のカメは 175歳です。2,000年には遠く及びません。アイスランドの浜辺で見つかった 405歳に達する しゃこ貝のことを聞いたことがある方もいるかもしれません。でもこの貝は 研究室で 年齢を調べている間に死にました。最近の発見で一番興味深く感じるのは 「不死のクラゲ」とでも言うべきもので 成体になった後でポリプ型に戻れることが 研究室で観察されました。とはいえ 野生状態で クラゲがそれ程長生きできるとは思えません。

イチイの話に戻ります。この木はスコットランドの教会の庭で保護されています。イギリス各地の教会でイチイの古木がたくさん生えています。でも計算してみるとわかりますが 最初にあったのはイチイで後から教会ができたのです。

別の地域の話に移りましょう。以前 南アフリカのリンポポ州を旅行する機会がありました。バオバブの専門家と一緒でした。バオバブを何本も見ましたが これが一番長寿だと思います。樹齢2,000年ほどです。サゴーリ・バオバブと呼ばれています。こうした古い木々は全て 歴史の刻印だと思います。自らの内に何千年という歴史を 刻み込んでいますし 自然界や人間界の出来事も記録しています。バオバブを見ると それがよくわかります。このバオバブには 人間の名前が彫られています。自然界の出来事も記録されています。バオバブは年を取ると 中心部がパルプ状になり空洞化します。そして動物たちの 自然の隠れ家になります。怪しげな人間の行為にも使われてきました。バーや刑務所 そしてトイレにまで。

私がもう一つ気に入っている 変わった木があります。ウェルウィッチアという木です。ナミビアとアンゴラの一部沿岸のみに自生し 海から来る霧の水分を 集めるよう順応しています。これは実際のところ木なのです。原子的な針葉樹です。真ん中に果実をつけています。葉っぱが2つの大きな山を作っていますが 実際は2枚の葉です。厳しい砂漠の気候により だんだんと切り裂かれていくのです。葉を落とすことはないので 最も長い葉を持つ 植物であるという 栄誉を手にしています。ケープタウンの カーステンボッシュ植物園で ウェルウィッチアの由来を生物学者に尋ねると 答えはこうでした。ナミビアに行けば 化石化した森がいくつもあり そこにある丸太はすべて 巨大な針葉樹のものだが どこから来たのかを示すものは何もない。その生物学者の考えでは アフリカ北部の洪水が 何万年も前にそれらの木々を運んできた。そこから砂漠特有の環境への注目すべき適応が起きたのです。

長寿生物の中でも最もロマンチックなケースだと思います。これは地底森林と呼ばれるものです。プレトリア植物園で ある植物学者が この地域に適応してきた植物があると教えてくれました。ブッシュフェルト地方は 乾燥し火事が起きやすい場所です。これらの木が何をしているかというと ここが木の最上部で こちらが地面だとして 木の全体が 地中に 移り住んでしまい これらの葉だけが地表に現れているのです。そうすれば 火事が迫って来ても まつ毛が焦げる程度のことで済むのです。すぐに回復できます。これらの木もクローンによって増えます。最も古いものは1万3千年ほど生きています。

アメリカでも同じぐらい古い植物がいくつかあります。このクローンのメキシコハマビシは。樹齢1万2千年ほどです。アメリカ西部に行けば メキシコハマビシはどこにでもありますが この個体は独特の 丸い形をしています。元々の形から 少しずつ外に広がっています。これも一つにつながった根を持ち 同一の遺伝子を持つ個体となっています。近くには「友人」と呼べるような 植物もいます。1マイルほどの距離にあるクローンのモハビ・ユッカです。1万2千年以上生き続けています。同じような丸い形をしています。より若いクローンが 周辺に点在しています。ユッカもメキシコハマビシも 土地管理局の所有地にあります。国立公園で保護されている訳ではありません 実際この地は オフロードカーで楽しむための場所とされています。

では恐らく世界で最も古くから生き続けている 生物をお見せしましょう。シベリアのアクチノバクテリアです。40万年から60万年も生きています。数年前に惑星生物学者のチームが 他の星に生命がいる手がかりを探そうと 地球で最も厳しい気候の場所を探査している際に発見しました。永久凍土の調査から見つかったのが このバクテリアです。ユニークなのは 氷点下でDNAの修復を行う点です。つまり眠ってはいないのです。50万年の間 生き続け成長しています。このバクテリアは最長寿の生物の中で 最も脆弱な生き物でもあります。永久凍土が解けると 生きていけません。

この地図は最長寿の生き物をまとめたものです。世界中にいることがわかります。青い旗が立っているところは私が写真に収めたところで 赤い旗はこれから行こうとしている場所です。 南極にも旗を立てています。南極半島にいる 5,000年生きている苔を 見つけたいのです。

このプロジェクトにはあと2年間 取り組むつもりです。5年が経過した今の段階では この仕事の意義がよくわかった気がします。世界で最も古くから生きている生物は 過去の記録であるとともに賛歌であり 現在の行動を呼びかけるものであり そして未来への指標なのです。そうした生物は 砂漠や永久凍土 山頂や海の底で 何千年も生き続けてきました。知られざる自然の脅威や人間の侵略を耐えてきたのです。でもその一部は危機に瀕しています。立ちあがって別の場所に移るなんてことはできないのです。こうした生命体を見つけに行くことで それらが持つ驚くべき生命力への関心を呼び起こし 将来に渡って生き続けて行けるような 環境作りに貢献したいと思っています。

ありがとう。

(拍手)


※このトークの翻訳は、Takako Sato さんにレビューをしていただきました。

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