2010年11月9日火曜日

「クリス・アンダーソンが語るTEDのビジョン」(邦訳)

以下は、TED Talksのひとつ、 「クリス・アンダーソンが語るTEDのビジョン」(Chris Anderson shares his vision for TED)の、拙訳による日本語訳文です。このトークについての紹介はこちらをご覧ください。



TEDは、あなたたちが主役の会議です。だから、あなた方はTEDが変革期にある今 その運営を行っていく者のことを知る権利があります。それで、私はここに出てくることにしました。

2年前のTEDで、私は- こう結論づけたのですが― 私は妙な思い込みに囚われていたかもしれません。無意識のうちにこう思っていました。自分はある種のビジネス・ヒーローだと。私には15年かけて築き上げたフューチャーという会社がありました。雑誌の出版社です。少し前に株式公開したところでした。市場では20億ドルほどの価値があると評価されました。理解できないほどの大金です。また、少し前に立ち上げた「ビジネス2.0」という雑誌は 電話帳よりも分厚くてバブル景気に熱気を吹きこんでいました。 (笑) -そして私はあるドットコム企業の株を40%保有していました。間もなく上場しそうで、数十億ドルの価値はあるはずの会社でした。これらすべては一から築き上げたものです 。15年前、私は科学ジャーナリストでした。「本気でコンピュータ雑誌を立ち上げたいんだ」と言うとみんなに笑われました。でも15年経ってみると-100誌もあります。私の会社には2000人の従業員がいて-熱気にあふれた日々でした。2000年2月のことです。私は自分のビジネス人生が ムーアの法則のようだと考えていました。ずっと右肩上がりになっていくだろうと。そうでなければならなかったのです。そうでしょう? 自分でも驚いていました。

私のドットコム企業は 皮肉にもスノーボールという名前で、その翌月、ナスダックが暴落する前に株式公開した最後の消費者向けウェブ企業で、私は18ヶ月間の地獄を見ることになりました。それまで築き上げたものすべてが目の前で崩れてきました。すべてが死に絶えてしまうかのようで、15年間の仕事が無に帰してしまうかのようでした。心が張り裂けそうでした。まず、従業員を350人に増やすのに費やした8年間の血と汗が犠牲になりました。自分はそのことをとても誇りにしていたのに 2001年2月、私は350人をレイオフしたのです。その流血が止まる前に、私の会社で働く1000人が仕事を失いました。ひどい気分でした。私の資産もどんどん減っていきました。18か月に渡って、1日に100万ドルずつ減っていったのです。それよりもさらにずっと悪いことに 私の自尊心が消えて行きました。私の額には大きな「負け犬」という印が刻まれていました。(笑) 振り返ってみると、何よりも最低だったのは 私が自分の個人的な幸せを あれほどまでにビジネスと結びつけていたことです。

最後にはフューチャーもスノーボールも救うことができましたが その時には私は次に進もうと考えていました。そして、手短に言うと、ここにやって来たのです。この話をしているのは、多くの人と話す中で ここにいる人の中に同じような激動-感情の激動ーを過去数年の間に 経験した人がたくさんいることがわかったからです。今は非常に大きな変革期です。TEDカンファレンスは私たち皆が次なるステージに進む上で 大きな役割を果たすはずです。それがどんな「次」であろうとも。来年のテーマは「再生」にします。

2年前のTEDで 私はリチャードとTEDの将来について合意に達しました。ちょうど同じ頃、そして恐らくはそのせいもあって、 私は自分が仕事を行う中で忘れていたことを始めました。再び本を読み始めたのです。そして、自分が仕事にいそしんでいる間に いろんな分野で信じられないほどの大変化が起きていることに気づきました。- 宇宙論でも、心理学でも、進化心理学でも、人類学でも、 あらゆることが変わっていたのです。我々をひとつの種族やひとつの惑星とみなす方法が大きく変わっていて とても刺激的でした。一番興奮したのは、 リチャード・ワーマンは私より20年も前に気づいていたのですが、すべてのものはつながっているということでした。つながっているのです。お互いに。

私たちは、このことをたくさん話しました。そして私は何かその例となることができないかと考えました。よく知られているように、フランス大統領の妻だったド・ゴール夫人は かつて「何がお望みですか?」と聞かれて 「ペニス」と答えました 考えてみるとその通りです 私たちが皆もっとも望んでいるのはペニスです。もとい、英語で言うところの「ハッピネス(幸福)」です。(笑) ええと、日本語の翻訳ルームさん、がんばって訳してくださいね。(笑) (拍手)

幸せと同じぐらい基本的なものは 20年前には教会やモスクやシナゴーグのような所でしか 話されないものでしたが 今では何十というTEDに出てくるような 本当に面白い問いがあります。その原因は何なのか、生化学的に問いかけることもできます。神経科学やセロトニン、そういったものたちです。その心理学的な原因は何なのかを問いかけることもできます。それが本性なのか教育の結果か、それとも現在の状況によるものか? このことについての研究は本当に驚くようなものでした。それはコンピュータの問題、人工知能の問題だと考えることができます。なぜ、ある種アナログである幸せを コンピュータの頭脳と一緒にしなければ上手く機能しないのでしょうか? 地政学的な用語を使えばこう言うこともできます。なぜ地球上の10億の人々がどうしようもなく困窮していて 幸せになる可能性すらないのか、 そしてその他ほとんどの人々が どれ程のお金を持っているかに関わらず、たとえ1日に2ドルだったとしても、 平均するとほとんど同じぐらい幸せなのか? もしくは、進化心理学的な見方をすることもできます。なぜ私たちの遺伝子は我々が何らかの特定の行動をするように我々を作り上げたのか?蟻の脳が寄生されて 私たちの遺伝子が繁殖するように特定の行動を取らせるようになったのか? 私たちは大量の思い込みの被害者なのか? などなど。

幸せと同じぐらい大切な何かを理解するためにさえ こうしたあらゆる方向へ分け入っていかないといけないのです。そしてTEDの他にこれほど多くの質問を これほど多くの違った方向に投げかけることのできる場所はありません。だから、リチャードが語ったのは本当に重要なことなのです。何かを理解するためには、少しだけ理解すればいいのです。それを取り囲むすべてについて、少しずつ。これまでの3日間で あなた方は少しずつ理解し始めています。なぜ自分はこれらの無関係なことを聞いているのか、と 4日目が終わる頃には あなた方の頭脳は活発になり、元気づけられ、生き生きとして興奮していることでしょう。それは、これら全てのかけらたちがつながったからです。それは全脳的な体験です。心に行う全身マッサージなのです。(笑) 全ての心的器官に効きます。本当です。

理論についてはもう十分でしょう。私が実際何をするつもりなのかを聞きたいですよね。これがTEDのビジョンです。

一つ目 - 何もしない。TEDは文無しではないので 直すところもありません。ジェフ・ベゾスがこう言ってくれました。「クリス、TEDは本当に素晴らしい会議だ 本当にひどいことをしなければダメにはならないよ」 (笑) つまり、私が自分の肩書を「TEDの管理人」としているのには理由があるのです。今、ここでお約束しましょう。TEDを特別なものとしている中核的な価値観はこれからも変わらないと。真実、好奇心、多様性、商売や企業のたわごとは禁止、 流行の後追いや政治的な演説も許可しません。ただ興味を追求します。それがどんなものであろうと、この場で表明された全ての分野を横断して追求します。それはこれからも変わりません。

二つ目-私は来年に向けて 素晴らしいラインナップの講演者を集めます。TEDが運営されるタイムスケールは 毎月の締切がある雑誌の世界から来た身にとってはとてもありがたいものです。1年間も余裕があるのですから。後で少し紹介できればと思っていますが 来年に向けて25人ばかりの素晴らしい講演者が登録しています。TEDのコミュニティからの大きな助力もあります。本当にすごいコミュニティです。これらが合わさって、私たちが連絡を取っている人は この国で面白いことをしている人のほぼすべてに及んでいます - 地球全体ではないにしても。本当ですよ。

三つ目 - できることならば 1年を通じてTEDの経験が得られるようにできないかと考えています。そのためのひとつの方法がブッククラブです。この数年、私は本に救われました。その贈り物を受け継いでいきたいのです。TED2003に申し込んだ人には、6週間ごとに小包とともに1、2冊の本と なぜそれらがTEDにつながっているかの説明書きが送られます。本はTEDの講演者によるものかもしれません。それにより私たちは1年を通して会話をつづけることができ 同じ知的・感情的な旅行をした上で来年ここに帰ってくることができます。それはすごいことだと思います。

四つ目 - サプリング財団について話をします。TEDの新しいオーナーです。サプリング財団がオーナーになったということは、TEDの収益のすべてが サプリング財団の支持する理念のために使われるということです。また、より重要なことだと思うのですが、TEDで表明され、実現されたアイデアは サプリング財団が利用することで素晴らしい相乗効果を上げることができるのです。すでに、この数日だけでも大勢の人々が 気にかけていることや情熱を燃やしていること、世界の変化につながるようなことについて話をしてきました。こうした人々をひとつにするというアイデアは - それは私たちの理念でもあるのですが、 この会議が生み出すお金やアイデアは - それらを組み合わせることでやがて変化を作り出すことになるはずです。そのことに心からわくわくしています。実際、自分の人生の中でこれほど興奮していることはありません。私は長期に渡ってTEDに関わっていきます。もしあなた方がこの旅をともにしてくれるなら とても名誉に思います。

[このトークの翻訳は、Masahiro Kyushimaさんにレビューをしていただきました。]

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