以下は、TED Talksのひとつ、 ジョージ・スムート「宇宙のデザイン」(George Smoot on the design of the universe)の拙訳による日本語訳文です。このトークについての紹介はこちらをご覧ください。
皆さんの世界に対する認識を少しばかり変えて 自然界にあるデザインをお見せしたいと思います。スライドを使って宇宙の夜明けについてお話しします。私は宇宙調査と呼んでいますが 創造の名残りを観測することによって 始めに何が起きたのかを推測し それを続けることで理解につなげるのです。
辺りを見回して下さい。何が見えますか? この場は デザイナーや人々が働いて作り上げた空間です。でも実際に見ているのは 既に存在していた物質がある状態に加工されたものです。ではその物質はどこから来たのでしょうか。どうやって加工前の状態になったのでしょう? これは連続性とは何かという問題です。私に言わせれば 宇宙がどのように 始まり形作られたかという問題につながっています。宇宙創世とその後の進化において いかにしてこれらの物質は生まれたのでしょうか?
ではここでハッブル超深宇宙探査の写真をお見せしましょう。この写真は 暗い中に光る物体がいくらか見えます。光る物体のうち4個は恒星です。ここです-小さなプラスの形をしています。これとこれが恒星で 他は全て銀河です。眼をここにやれば数千の銀河を簡単に見ることができます。特に 私たちの銀河とよく似ているこの銀河を見ると不思議な気持ちになります。そこで芸術大学のデザイン会議が開催されているのではないか、そして知的生命体がデザインについて考え、そこには何人かの宇宙学者がいて宇宙がどこからやってきたのかを考え、中には私たちの銀河系を見てここで起きている事を知りたがっている者もいるのではないか、と。
でも銀河は他にもたくさんあり 近くのものは 太陽のような色をしていて 遠くにあるものは青みがかった色になります。でも知りたいのは なぜこれほど多くの銀河があるのかということではないでしょうか。これは宇宙のごく一部をきれいに表したものです。たった千個の銀河しかありません。ハッブル宇宙望遠鏡で観測できる銀河は 精査する時間があれば およそ千億個ほどだろうと考えられています。非常に多い数です。私たちの銀河にある恒星の数もそれと大体同じぐらいです。
でもこのような写真を見ると 恒星よりも銀河の方が沢山あります。どうしてかはわかりません。だから 疑問に思うべきなのは どんなデザインや創造的なプロセスが 世界をこのように作り上げたのかということです。それは非常に複雑なことだということをお示ししていきます。試行錯誤しながら進んで行きます。これを調べる上で役に立つのは 宇宙があまりに大きいので ある意味 タイムマシンになっているという事実です。ここに多層の球体の断面図を描いています。地球から観測を行うので 地球を球体の中心に置いています。月は光速で2秒の距離にあるので 月の写真を撮ると2秒前の月が写ります。2秒というのは現在のようなものです。太陽だと8分前です 襲来するフレアから逃げるとき以外は 大きな問題ではありません。襲ってくる場合は多少前もって警告を受け取りたいですね。
でも木星になると光速で40分かかります。これは問題です。火星とコミュニケーションを取るのも大変です。光が行き来する時間がかかりますから 一番近い40〜50ほどの恒星までは 10年ほどかかります。写真を撮って見えるのは10年前の姿です。銀河の中心となると 何千年前の姿になります。一番近い銀河であるアンドロメダは 200万年前の姿です。地球で200万年前といえば 人間の痕跡は皆無でしょう。まだ人間が現れる前だったでしょうから これでスケールがおわかりいただけたでしょう。ハッブル宇宙望遠鏡を使って 私たちは数億から10億年という時間を見ています。
より遠くを見る方法を思いつけば - 私はそれを大いに 研究してきました - 恒星や銀河が生まれるよりも前の時代を見ることができます。今と違って熱くて高密度の宇宙の時代です。そんな順番に並んでいるのです。これを別のイメージ図で示します。真ん中に銀河系があります。天の川銀河です。周りをハッブルで見たような銀河が囲んでいます。球体は異なる時間スケールを表しています。その後ろにあるのはより新しい銀河です。
全体像がわかりましたか? 時の始まりというのは奇妙なことに外側になるのです。それに宇宙には我々には見えない部分があります。あまりに高密度で熱すぎるので光が出られないのです。 太陽の中心を見ることができないのと同じです。太陽の内部で起きている事を知るには別の方法が必要です。でも太陽の外縁は見ることができます。宇宙もそのようにして見ることができるのです。外部ぎりぎりのところがモデル領域です。ビッグバンから生まれた放射です。信じられないほど一様なのです。宇宙はほぼ完全に球体です。ただごくわずかの変動があり この絵では極端に拡大して描いています。時の経過に伴いこれらの小さな相違が 不規則な銀河や最初の恒星になり、より発展した銀河を経て最終的には太陽系が生まれるのです。
壮大なデザインです。どのようにして行われてきたのかを見ていきましょう。これらの計測は いくつかの人工衛星で行われました。1989年に打ち上げられたCOBE衛星を使って この相違を発見したのです。2000年にはWMAP衛星が打ち上げられ より鮮明な写真が撮れるようになりました。今年後半には - これは格好良くて静かな衛星です。美しいデザインを持っています - Planck衛星が打ち上げられ 非常に高精細な地図を作るでしょう。このようにして宇宙の始まりに向かって 理解を進めて行くのです。
宇宙にある相違から 時空の構造と宇宙の構成要素、そして宇宙の始まりに関する秘密を知ることができます。この壮麗な絵を用意しました。宇宙の始まりに戻りましょう。何らかのきっかけで宇宙が生まれ 膨張期を経て宇宙が冷え 透明になります。そして暗黒時代の後 最初の恒星が光を放ちます。そこから銀河、やがて銀河団が形成されます。この間どこかで太陽系が形成され 今の形に成長してきました。驚異的なこともありました。このゴミ箱の底みたいな部分は 膨張期の時空の構造自体の変化を示しています。本当に奇妙なモデルですね。どんな証拠があるというのでしょう?
この結果生まれた自然界のパターンを いくつかお見せしましょう。私は 時空こそが宇宙の本質であり 銀河や星は海の泡のようなものだと考えています。面白い波がどこにあり 何が起きたかを示すものなのです。これはスローン・デジタル・スカイ・サーベによる100万個の銀河で 一つひとつの点が銀河の位置を示しています。調査では望遠鏡を空に向けて写真を撮り 銀河に注目するので恒星は除外して 距離を推定して作図すると 放射状にこのようなものができます。宇宙の大規模構造である グレートウォールが見えます。一方で空洞の部分や暗くなっている部分もあります。望遠鏡の性能によるものです。
3Dで見てみましょう。どうするのかというと 地球の自転に合わせて扇形に宇宙を撮影します。我々の銀河に邪魔されて見えない場所や 望遠鏡の制約により見えない場所もあります。次の映像では 3D 版をくるくる回して見せます。宇宙が扇形に映し出されているのがわかりますか? ひとつひとつの点が銀河を現しています。比較的我々の銀河から近い場所に先ほどの グレートウォールが見えます。複雑な構造もあれば空洞もあります。銀河のない場所もあれば 何千もの銀河が密集している場所もあります。面白いパターンがありそうですが それを調べるにはデータが不足しています。たった100万の銀河についてのデータしかないのです。空にある100万のボールを見ているようなものです。ではどうするか? これとよく似た調査結果があります。2度視野銀河赤方偏移観測です
2度の視野の中で遥か遠くまで観測します。銀河を見つける度に 赤色偏移などを観測し 銀河の種類や色を 記録していくのです。これは実際の観測結果を表したものです。銀河の真ん中にいるときは パターンが見えづらくなります。人生の真ん中のようなものです。観客の真ん中にいると パターンは見えにくいものです。外に出てから見てみましょう。まず調査の構造がわかります。そして銀河の構造が見えてくるようになります。外にいるから見えるのです。グレートウォールがそそり立っているのが見えます。
空洞があるのもわかります。複雑な構造です。どうしてこうなったのでしょう? 自分が宇宙のデザイナーだと思ってください。どうやって銀河をこんな模様に作りますか? ただランダムに放り投げただけではありません。もっと複雑なプロセスがあります。どうやってそれを作り上げるのでしょうか? このカンファレンスの題名でもある"serious play"の出番です。私たちは神の役割を真面目に演じなければいけないのです。人々の生活を変えるだけでなく、宇宙を作ることについても その責任を負うとしたらどのように行いますか? どんな方法を使いますか? どんなことを行いますか?
大規模なシミュレーションの結果をお見せします。我々が考える宇宙のあり方について、人間が必死になって学んできたけれど 自然は最初から知っている 遊びとデザインの原則を使ったものです。とても単純な材料とルールから始めますが 複雑にするために材料の量は十分に必要です。そこにいくらかのランダムさとゆらぎを加えます。さまざまな形が現れます。
これからお見せするのは スケールに応じて定まる物質の分布です。ズームインしましょう。適正な宇宙にするために もう一種の素材を加えなければなりません。暗黒物質です。私やこのステージなどの 通常の物質とは違い 光との相互作用をしない物質です。暗黒物質は光に対して透明ですが ここでは 白く表現します。図で白く見える部分が暗黒物質です。目に見えない物質と呼ぶべきですが 私たちが目に見えるようにしたのです。黄色の部分は 星や銀河になる通常の物質です。
動画を見てみましょう。ズームインします。この模様に注目して下さい。もっとズームインしていきます。フィラメント(糸状の構造)や空洞が見えますね。たくさんのフィラメントがまとまって結び目のようになると 超銀河団ができます。今ズームインしているものは 狭い範囲に10万から100万の銀河があります。私たちはど田舎にいるのです。私たちは太陽系の中心にはいません。銀河の中心にもいません。そして我々の銀河は銀河集団の中心ではありません。
ズームインを続けます。10万以上の銀河がある場所です。そのエリアには約100万の銀河があります。もっとズームインしましょう。スケールを言い忘れていました。1パーセクは3.26光年です。1ギガパーセクは30 億光年ほどになります。光がその距離を行くのに30億年かかるということです。この2点の距離を考えましょう。これが私たちとアンドロメダの距離です。ここに見える小さなしみは銀河です。
ズームバックして戻ると 構造を見ることができます。遠くからだと規則正しく見えますが たくさんの不規則な濃淡からできています。構成部品は単純です。最初は非常に単純な流体です。 普通の物質も暗黒物質もあります。光子やニュートリノもありますが 初期を除いてはたいした役割はありません。単純な流体が時を経て この複雑な構造に発展するのです。最初にこの図をご覧になったときは 大した意味を持たなかったことでしょう。ここで見えるのは目に見える宇宙の1%ほどです。それでも何十億もの銀河 つまりノードを見ています。でもそれらは主要な構造ではないのです。目に見えない暗黒物質が枠組みのように作用して 全てをつなぎ合わせているのです。
何かの中にいながらその全体像をつかむのが いかに難しいかがおわかりでしょう。同じ結果になります。フィラメントがあります。明るい部分は目に見えない物質で 黄色は現れつつある銀河か恒星です。ずっと先へ進むと 時折フィラメント同士が交わっているところがあります。巨大な銀河団もあります。非常に大きな銀河団があるところにいきましょう。どんな風に見えるかわかります。内側からはあまり複雑には見えませんね? 縮尺を上げて見た時に初めてとても複雑なデザインだということがわかるのです。何らかの方法でここまで発展してきました。
知りたいのはこういうことです。これを組み立てるのはどれ程大変なのか? この宇宙を組み立てるとしたら どれ程大きな建設チームが必要なのか? それが大事なのです。さあ 着きました。どのようにフィラメントが 幾つかまとまって 超銀河団になるのかがわかるでしょう。でも実際にこう見えるわけではありません。まず こんなに速くは動けません。全てが破壊されてしまいます。ここでは簡単なレンダリングと映像ソフトを使っています。数十億年を旅すると もし見えない物質が見えれば このように見えるはずです。
こういうことです。どのようにして宇宙をシンプルにまとめるのか? 目に見える宇宙全体 ハッブル宇宙望遠鏡で見えるもの 他の機器で見えるものも全て かつては原子1個よりも小さな空間に収まっていたことがわかっています。はじまりは小さな量子論的ゆらぎでしたが 途方もない割合で拡大しました。それらのゆらぎが けた外れに大きなサイズに広がり 最終的には宇宙背景放射になりました。背景放射のゆらぎから銀河や銀河団の 不規則構造に到達する必要があります。
小さめのシミュレーションをお見せしましょう。今のシミュレーションは 1000個のCPU で 1 ヶ月計算して やっと今のような可視化ができるものでした。次の図に示すのは パソコンで2日でできるものです。宇宙に小さなゆらぎがあった時から 始めます。今度は四分の一の大きさです。そしてつながりが生まれ宇宙の構造が形成されるのがわかります。これはシンプルなモデルです。通常の物質はなく 暗黒物質だけがあります。暗黒物質が塊になり 通常の物質はこれについて行くのです。そうなのです。最初は均一でした。ゆらぎは10万分の1程度です。ところどころで1万分の1程度のゆらぎが生じ 何十億年もしてから重力が加わります。
密度の高いところは物質を引き寄せ どんどんと引き込んでいきます。でも宇宙の距離はとても広大で 時間の尺度も大きいので形成には長い時間がかかります。膨張ということで言えば 宇宙が今の半分ぐらいの 大きさになるまで形成が続きます。この段階で宇宙は不思議なことに膨張を加速し より大きな構造の形成は止まります。ここで見えている構造の大きさが上限で、すでに形成が始まっていた物だけが どんどんと形作られていきます。
このシミュレーションは パソコンで2日かかります。先に見せたようなシミュレーションを行うには 1000 個の CPU で 30 日かかります。どうやって宇宙の創造をまじめに遊ぶかはわかっています。物質に満ちた 涙よりも小さなものから始めます。ほとんど何も無いところです。極めて小さく ほぼ完璧ですが 10万分の一の単位でわずかなゆらぎがあります。そのゆらぎが私たちの目に見える 面白いパターンやデザインを生み出しています。つまりそれが銀河や恒星なのです。
私たちにはモデルがあり 計算もでき それを使って 我々が思うところの宇宙の姿をデザインすることができます。そのデザインは私たちが元々想像していたものを 遥かに超えるものになります。私はこれを15年前に始めました。COBE(宇宙背景放射探査機)を使い地図を作りました。大規模なゆらぎがあり それはいくつかの段階に分かれていることがわかりました。その後WMAP(ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機)による探査が始まり より高角度の分解能力を得ました。同じ大規模構造の他に小規模構造も見えるようになりました。右下にあるのは もし衛星の方向が逆になって地球を描いたら どうなるかというイメージです。主要な大陸を 見つけることができるでしょう。
今後打ち上げられるプランク衛星に期待したいのは 地球上で複雑なパターンを見ることができるのと同じように 高い分解能で宇宙を観測することです。鋭い境界とか ぴたりとはまる断片から 非線形のプロセスの存在がわかります。例えば 地質学では プレートの移動という 非線形の効果があり これは地図だけからでもわかります。初期宇宙の地図でもそのレベルに達したいのです。何かを動かし変化させる非線形の効果の有無は 時空そのものが生じた始まりが どのようであったかについての ヒントになります。私たちは今ここまで来ています。それをお伝えしたかったのです。デザインや全てのものの見方について 異なる視点を伝えたかったのです。ありがとう。 (拍手)
[このトークの邦訳は、Natsuhiko Mizutaniさんにレビューしていただきました。]
2010年10月14日木曜日
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