2011年1月26日水曜日

視線をずらすということ

"Nowhere"は、見方を変えれば"Now Here"でもある - 言われればその通りなのですが、何年前でしょうか、初めてこのことを知った時にはかなり驚きました。どこで知ったのかはもう定かでありませんが、HEATWAVEの山口洋さんのブログか何かだったのではないかという気がします。

ただの言葉遊びではありません。今でもこの2つの言葉を時々思い出すのは、「どこでもない場所」と「今、ここ」という一見対極にあるものが、すっと入れ替わってしまうことに強い印象を受けたからだと思います。

このように、見方を変えることで生まれる新しい意味合いには、とても心惹かれるものがあります。自分が元々の意味を当然のものと受け止めていればいるほど、そして新しい意味がそこから飛躍していればいるほど、視点をずらすことで広がる新たな地平が新鮮なものに感じられるのです。

自分が気に入っているそんな例として真っ先に挙げられるのが、高知県西部の黒潮町(旧大方町)にある「砂浜美術館」です。

http://www.sunabi.com/


「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。」というコンセプトのもと、数キロに渡って広がる砂浜を美術館に見立てて松原や沖を泳ぐクジラ、砂浜の風紋などを作品だとするこの場所は、自分がもっとも好きな美術館のひとつです。毎年ゴールデンウィークの頃に開催される「Tシャツアート展」、是非また訪れてみたいと思っています。

もう一つ挙げておきたいのが「屋根の家」。建築家の手塚貴晴さんと手塚由比さんが設計した住宅です。屋根の上で過ごすのが好きだった施主のご家族のために、上でご飯を食べたり、ごろんと横になったりできる広~い屋根のある平屋建ての家ができあがったんだそうです。手塚さん夫妻が書いた『きもちのいい家』という本にも設計のプロセスなどが記されていますが、「屋根の上」を「屋根の下」と同じぐらい、もしくはそれ以上に重視したこの家は本当に素敵です。

自分が気づいていないものの見方や意味合いというのは、まだまだあるはずです。そうそう頻繁にあることではありませんが、またそんな気づきに出会えることを楽しみにしています。

2011年1月24日月曜日

読書ノート「スティーブ・ジョブズの流儀」

アップルの創業からiPod・iTunesあたりまでを対象に、スティーブ・ジョブズの仕事に対するアプローチを追った本です。

スティーブ・ジョブズの流儀
スティーブ・ジョブズの流儀リーアンダー ケイニー 三木 俊哉

ランダムハウス講談社 2008-10-23
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ジョブズを崇拝も酷評もせず、さまざまな場やインタビューなどでの彼の発言を丹念に拾い集めたり、アップルの創業時から最近に至るまでの各プロジェクトでの中心人物への聞き取りなどを行ったりすることで、ジョブズの考え方を浮かび上がらせています。

自分もiPodやiTunesは使っていますが、スティーブ・ジョブズ関連の本はこれが初めてでした。アップルの大ファンという程でもないので、面白くなかったら途中でやめようというぐらいのつもりで読み始めましたが、一気に最後まで連れて行かれました。全体を通した内容ももちろん面白かったのですが、ジョブズを始めとする登場人物の言葉や、文脈に合わせて著者が引用した節が非常に力を持っていて、その点がとても印象的でした。幾つかを抜粋して引用します。

「 スティーブのやり方がほかのみんなとちがうのは、最も重要な決定は何をするかではなく何をしないかを決めることだ、と信じていた点だ」(ジョン・スカリー)

「フォーカスグループに何がほしいかを尋ねてもイノベーションはままならない。彼らは何がほしいかを知らないからだ。大衆車を世に広めたフォード・モーター創設者のヘンリー・フォードがかつてこう述べている。『もしお客様に何がほしいかと訊いていたら、もっと速い馬という答えが返ってきただろう。』」

「簡潔さとは複雑さを研ぎ澄ましたものである」(コンスタンチン・ブランクーシ)

「イノベーションとはお金ではない。人材であり、彼らをどう導くかである。それをどれだけ理解しているかである。」(スティーブ・ジョブズ)

「年をとればとるほど。動機こそが大切なのだという確信が深まる。」(スティーブ・ジョブズ)

事業経営だとか新規製品の開発といった分野に限らず、日々の暮らしの中でもはっと我が身を振り返ってしまうような、そんなフレーズが散りばめられた本でした。

2011年1月18日火曜日

しいたけ栽培キット

昨年末にいただいた「しいたけ栽培キット」。毎日の水やりが必要とのことだったので、帰省などが終わった1週間ほど前から始めてみることにしました。栽培といっても、木の切り株を模した栽培ブロックを袋に入れ、毎日霧吹きで水を上げるだけ。部屋の中で簡単に育てることができます。気温が高いと育ちにくい(夜の最低気温が20度を下回る時期が栽培時期とのこと)そうなので、今はシーズン真っ盛りなのです。

「あっという間に伸びてくるよ」と聞いてはいたものの、にょきにょきと成長するその勢いを目の当たりにして驚きました。カイワレ大根などでも植物の生長の早さは実感できますが、こちらは大きさがある分迫力のようなものも感じます。

今日の昼間に撮った写真がこちら。

まだしめじぐらいの大きさでしたが、ここで一部を収穫してみることにしました。採ったしいたけは豆腐と一緒に味噌汁の美味しい具になりました。

この栽培キット、一度収穫を終えた後でもしばらく水に浸すことで何度かしいたけが生えてくるということで、しばらく楽しめそうです。

市民農園などを借りた農業や、家庭菜園などに取り組む人が増えて来ているという話を時々耳にします。自分もそうしたことに関心があるのですが、「しいたけの栽培」と聞くと、素人には何だかハードルが高いような印象を受けます。それをこんなに簡単にできるキットにしたのは、目の付けどころの良いアイデアだなと思いました。こうした一般向けの「農」関連の製品というのは、もしかすると、農家の方々のノウハウとアイデアを組み合わせると、他にもいろいろと面白いものが出来るのかもしれませんね。

こちらのしいたけ栽培キットは、楽天などで通販でも買えるようなので、ご興味があれば見てみて下さい(こちら)。

2011年1月16日日曜日

「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました」(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました(John Francis Walks the Earth)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。




2011年1月15日土曜日

「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました」(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「ジョン・フランシスはひたすら地球を歩いてきました(John Francis Walks the Earth)」

[TED2008, 19分28秒]

"プラネット・ウォーカー"と呼ばれるジョン・フランシスのトークです。1971年にサンフランシスコ湾で起きたタンカーによる石油流出事故をきっかけに、彼は22年に渡って車やオートバイなどの乗り物に乗るのをやめ、アメリカ中を歩きながら環境のことを考え、学んでいきます。そのうち17年間はひと言も口を利かずに。しかも、無言の旅の間に2つの大学院に通い、Land Managementの博士号まで取得するのです。ここでは、その旅のことが語られています。

17年の無言、ひたすら歩いた20年以上の旅なんて聞くと、苦行のようにストイックなものが思い浮かぶかもしれません。でも、この動画で語るジョン・フランシスは"無口な修行僧"のような感じとは程遠く、おしゃべり好きで頭の回転が速く、そしてユーモア精神に満ちています。そんな人が長い内省の時を過ごし、その体験を"しゃべり好き"に戻った今振り返る-それがこのトークです。一つひとつのエピソードも抜群に面白いのですが、この落差とでも言えるものが、彼の話を一層興味深いものにしています。翻訳したのは1年以上前ですが、今でも一番気に入っているTEDトークの一つです。

フランシスは自らの体験を本にも著していて、『プラネット ウォーカー 無言で歩いて、アメリカ横断17年』という題名で邦訳も出ています。また、映画スタジオのユニバーサルが彼の体験の映画化権を入手したという話もありました。もう5年ほど前の話なので既に頓挫しているかもしれませんが、ウィル・スミスがフランシス訳をやるのでは?なんていう噂も一時は出たそうです。

プラネット・ウォーカーの話、是非ご覧になってみて下さい。

<その他の関連リンク>
Planetwalk: http://www.planetwalk.org/

2011年1月14日金曜日

昔のデジカメ

部屋の整理をしていたら、10年以上前に初めて買ったデジカメが出てきました。EPSONのCP-600というデジカメです。発売が1998年5月となっていますから、その年の夏~秋ごろに手に入れたもののはずです。

130万画素、単焦点。実際は、たくさん枚数を撮るため、ほとんどいつも一番画質の低いモード(30万画素ぐらい?)にしていました。電池の消耗が速くシャッターを押してからの反応も間が開くなど、当時も不便だなあと思うことはあったのですが、写真の色合いは結構好きで、いろいろなところに持っていっていました。その頃はパソコンのクラッシュも今よりずっと高い頻度で起き、コンパクトフラッシュなど外部メモリの値段もまだ高かったので、このデジカメで撮ったけれど今は残っていない写真や、辛うじて自宅で印刷した色のくすんだ写真だけが残っているものが少なからずあります。いま手元にあるものの中から、旅行の写真をいくつかご紹介します。






ヴェトナム、トルコ、マダガスカル etc.どの写真も思い出深いものばかりです。

ところでこのデジカメ、今でも電池を入れればちゃんと動くのですが、機能や利便性といった点で最近のデジカメとの差がありすぎるので、さすがに今使おうとはあまり思いません。自分は数十年前の古い銀塩カメラを大いに楽しんで使っているのですが、それとは対照的です。

クラシック・カメラと呼ばれたりして逸品扱いされる昔の銀塩カメラはありますが、恐らく今も、今後も「クラシック・デジカメ」というものは出てこないのではないかと思います。電気系統や電子部品の寿命の問題に加え、"今"のモデルの方が"昔"のモデルよりも遥かに機能が高いというデジタル機器の特性があるからです。

もちろん自分もデジカメの便利さは身にしみてわかっていますが、電池がなくても自分で絞りやピントを設定して写真を写すことができる昔のマニュアル・カメラを手にすると、数十年という時間を越えてなお道具として魅力を放っているその完成度の高さに驚かされます。機能や便利さだけを考えれば圧倒的にデジカメの方が有利なのですが、そうした要素はあっという間にバージョンアップされていくので、機能的な寿命という点ではアナログのカメラよりもずっと短いのではないかという気がします。「機能面での寿命が短く、時が経つと、使える状態にあっても使われることがなくなってしまう」というのは、デジタル機器の大きな弱点だと言えるのではないでしょうか。昔のデジカメに触れ、それで撮った写真を懐かしく思い出しながらも、そんなことを考えました。

2011年1月11日火曜日

自転車のサイドカー

先日カリフォルニアを旅行した際に、REIというアウトドア用品店に行きました。このお店、パタゴニアなどを始めとする取り扱い品の品ぞろえが良くて好きなのですが、今回「いいな」と思ったのは、店頭に置かれていた自転車に子どもを乗せるためのサイドカーでした。REIのサイトでの紹介はこちらで、価格は500ドルと表記されていました。決して安くはありませんね。

これは、Chariotというメーカーの製品だそうです。Youtubeに自転車への取り付け方を説明する動画も出ています(英語)。


自転車の後ろでトレイラーを引っ張る形の子ども用キャリアは見たことがありますが、このようにサイドカー形式というのは初めてでした。自転車がゆったりと走れる道が少ない日本ではこのようなキャリアを使うのはなかなか難しいかもしれませんが、「自転車にサイドカー」という発想は、確かにありだなあと思いました。

2011年1月6日木曜日

「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である」(邦訳原稿)

以下は、TED Talksのひとつ「「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である (Richard St. John: "Success is a continuous journey")」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。




2011年1月4日火曜日

「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である」(紹介)

自分が日本語に翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「リチャード・ジョン:成功とは終わりのない旅である (Richard St. John: "Success is a continuous journey")」

[TED2009, 3分55秒]

起業家・マーケッターであり、"サクセス・アナリスト"という肩書も持つリチャード・セント・ジョンによる短いトークです。自らの事業のアップダウンを例に引きながら、「成功は一旦なし遂げたらそれで終わりというものではなく、継続させることにこそ注力すべきである」と語られていきます。なるほどなぁと思いました。確かに、何かを成功させること、上手く行かせることに比べて、上手く行った後にどうするかということに対する関心はかなり低くなりがちだという気がします。その点をずばりと指摘したこのトークは、簡潔ながら印象に残るものでした。

トークの終盤で「成功するための8つの原則」が出てきます。これはPassion, Work, Focus, Push, Ideas, Improve, Serve, Persistを指し、セント・ジョンが500人以上の"成功者"をインタビューして抽出したものです。各項目の詳細は、彼が2006年のTEDで行ったもうひとつのスピーチ「成功者だけが知る、8つの秘密!(Richard St. John's 8 secrets of success)」をご覧いただくとよくわかります。こちらも簡潔でわかりやすいプレゼンです。僕が訳したものではありませんが、合わせてご紹介します。


[TED2006, 3分33秒]


<その他の関連リンク>
リチャード・セント・ジョンの公式サイト http://www.richardstjohn.com/index.smm.php
ツイッター:http://twitter.com/richardstjohn
著書 The 8 Traits Successful People Have in Common: 8 to Be Great」

2011年1月2日日曜日

オーガニックな方向へ

このところ、「社会のさまざまな側面でデジタル化が急速に進んでいる一方で、アナログとデジタルを共に使って、より身体性を感じられる体験や心情的な近さを覚えるつながりを上手く生み出し、それを楽しんでいる人が少しずつ増えて来ているのではないか」と感じる機会が度々あります。それは単なる懐古趣味やデジタルの否定ではなく、アナログとデジタル、リアルとバーチャルといった区分けに捉われない「オーガニックな価値観」とでも言えるものではないかと思っています。生活のスタイル(自然に親しみ、ゆったりと質素に暮らすこと/英辞郎 on the WEBより)や関係性(多くの部分が緊密な連関をもちながら全体を形作っているさま/コトバンク) としてのオーガニックを、今年はより自らの暮らしに取り入れていければ良いなと考えています。

デジタル化が利便性や効率を飛躍的に向上させたことは確かですし、自分も大いにその恩恵を受けています。しかし、同時に暮らしのペースが格段にスピードアップし、また自分が「オン」でいなければならない時間が増えたことも実感しています。これらは悪いことばかりではありませんが、効率一辺倒であったり、「何でもデジタルがいい」といったりする考え方には、個人的には染まり切れない部分もあります。

時と場合によってデジタルとアナログを使い分けるというのは、多くの人が行っている当たり前のことかもしれません。でも、特に昨年は自分にとって「非デジタル」な体験の印象が強い年でした。

2つほど例を挙げると、まず、「TEDx」のリアルなイベントに参加したこと。そこで出会った人たちとの交流の中で感じた刺激や高揚感は、良い悪いの話ではなく、TEDトークの翻訳とレビューをネットを介して行うのとはまた別種のものでした。次に、家からあまり遠くない場所にあるプレーパークに子どもを連れていくようになったこと。プレーパークは、子どもたちが既存の公園の枠組みに捉えられない自由な遊びを行えるようにと造られた場所です。"プレーリーダー"を中心とする大人たちが見守る中、かまどでの火焚きから本気の泥んこ遊び、小屋づくり、木登りetcが繰り広げられていきます。元々子育ては、身体性に富み豊かな感情と直に接する機会の多い活動だと思うのですが、その中でも特に、この言わば非常にアナログな場所が持つ力を強く感じました。ともするとメディアを通じた体験だけで満足したり、わかった気になったりしてしまいがちな中、リアルな体験から得られる刺激の豊かさに改めて気づいた年でした。

リアルな体験に出かけるのは、ある程度の手間や時間がかかるものです。でもそこからは楽しさや迫力がリアルなものとして全身に伝わってきます。参加の仕方によっては、人とのつながりも生まれます。仕事や雑事に追われてなかなか思うように時間やエネルギーを割くことができないことも多い中ではありますが、本やネット、テレビなどを通じた体験だけでなく、自らの志向性に近い活動を行う場には積極的に参加し、そこで得た刺激やつながりを広げていくことを大切にしたいと思います。

こうした体験は、デジタルの世界と結びつけることで一層豊かなものになるはずです。自分が関心を持つ分野についての情報を集めたり、参加した際の気づきや感想を共有したり、そこで知り合った人との交流を深めたり、あるいは運営側であればスタッフ同士での打ち合わせやコミュニケーションに使ったりということに、デジタルのツールは大いに役立ちます。デジタルがもたらす効率性や利便性の助けを得られるところはそれを活用しつつ、必要だと感じたことについては手間や時間を惜しまずに力を注ぐこと-アナログとデジタル、リアルとバーチャルの境界に捉われることなく、それぞれの長所を活かしながら自分の志向性に沿った体験やつながりを広げられるような1年にしていきたいと思っています。