2011年3月31日木曜日

「カーク・シトロン:本物のニュースとは」(日本語訳文)

以下は、TED Talksのひとつ「カーク・シトロン:本物のニュースとは(Kirk Citron: And now, the real news)」の、拙訳による日本語訳文です。このトークの紹介についてはこちらをご覧ください。

2011年3月28日月曜日

「カーク・シトロン:本物のニュースとは」(紹介)

自分がこれまでに翻訳したTEDトークを紹介するエントリです。

「カーク・シトロン:本物のニュースとは (Kirk Citron: And now, the real news )」

[TED2010, 3分22秒]

The Long News」というサイトのキュレーターがそのプロジェクトの狙いと意義を伝える、短いトークです。

「The Long News」は、50年後、100年後も重要であり続けるであろうニュースを見出し、それに光を当てて残して行こうという取り組みです。ダニー・ヒリス、スチュアート・ブランド、ケビン・ケリーらが設立した「ロング・ナウ協会」のプロジェクトの一つとして行われています。

自分たちが日々さまざまなニュースに囲まれて過ごしていることは実感しやすいものだと思いますが、例えばロイター1社だけで年に350万ものニュース記事を配信しているという冒頭のひと言には驚きました。膨大なニュースの中で長期的にも重要な意味合いを持つものは限られていて、しかも、必ずしもそうしたニュースが大きな扱いを受ける訳ではないという主張も納得ができるものです。「The Long News」のサイトを見ると、あまり頻繁に取り上げるニュースのアップデートがされていない(最近は月に1~2回程度)ので、どれ程日々のニュースを詠み込んだ上での選択なのだろう?というのは若干疑問を感じますが、このトークで語られている理念には共感を覚えます。

我が身に引きつけて言うならば、日本ではいま、東北から関東を襲った大震災のニュースが日々大量に流れて来ています。その時々の最新ニュースに注意を払うことはもちろん大切ですが、目先の情報のみにとらわれることなく、今回の地震・津波およびそこから派生した原発の問題まで、この災害がもたらした甚大な影響の中で50年先、100年先にまで伝えていくべきことは何か、という視点を時には持つことも必要なのではないか、という気にさせられました。

2011年3月22日火曜日

「Chillout Song (心を落ち着かせる歌)」の物語

今回の大震災では本当に痛ましい被害が出ていますが、歌の力を通じて少しでも被災された方々を元気づけたり、支えたりしようという動きも出て来ています。もしかしたらこの曲にもいくらかそんな力があるかもしれない、と思って紹介することにしました。

Ze Frank (ゼイ・フランク)「Chillout Song」


ゼイ・フランクは、カリフォルニアを拠点に、ウェブ上で番組の司会やパフォーマンスを行ったり、人々に参加を呼び掛ける企画を立てたり、という活動を行っています。ウィキペディア(こちら)では、「オンライン・パフォーマンス・アーティスト、作曲家、ユーモア作家、講演家」と書かれています。

「Chillout Song」は、日本語でいえば「心を落ち着かせる歌」とでもいった感じでしょうか。この曲の企画は、ローラという女性がゼイにメールを送ったことがきっかけに始まりました。ゼイのウェブサイトに曲が生まれたいきさつが書いてあるので(こちら)、簡単に要約します。

=================
新しい土地に引っ越し、新たな仕事を始めて環境の激変に疲れてしまったローラが、ゼイに「心が打ちのめされてしまった時のための曲を作ってもらえませんか」というメールを送りました。彼女は、以前にゼイが、夜に1人で寝るのを怖がる子どものために歌い聴かせる曲をファン(もしくは知り合い?)からの依頼で作ったことを知っていたのです。メールを読んだゼイは、打ちのめされた(overwhelmed)時には実際どんな風に感じるのかをローラに尋ねつつ、一方で短いメロディと歌詞を作り、それにコーラスをつけてくれるようにという依頼を(ローラに知られないよう)静かにネット上で流します。

呼びかけに応じて、コーラスの録音が続々と送られてきました。ゼイはそれを曲にまとめ始めます。そして最初のメールから約ひと月が過ぎ、ローラから「お願いしていた曲はもう無くなってしまったんですね」というあきらめのメールが届いた数日後、ゼイは完成した曲をローラに送ります。ローラは、自分と縁も何もない、見知らぬ人の参加と協力によってこの曲ができたことに、大きな感銘を受けます。
=================

人を静かに元気づけようとするこの曲のメロディと歌詞もすごく好きなのですが、市井の人々の善意がひとつの曲を作り上げたというストーリーもいいなあと思います。ネットが持つポジティブな力の一面を表すプロジェクトだと言えるかもしれません。

実はこの曲、ゼイ・フランクのTEDトーク「Ze Frank's web playroom」を翻訳していて見つけました。トークの最後でこの曲のことが語られています。一次訳は終わっていますが、3/21時点でまだレビューしてくれる人がついていないので、日本語訳は未公開です。日本語訳がアップされたら、またお知らせします。

2011年3月5日土曜日

BBCの「Human Planet」

BBCの「Human Planet」という番組のトレイラーを見ました。イギリスでこの1月から8本シリーズで放送されてきた番組で、ちょうど今週が最終回だったようです。BBCのユーチューブアカウントにトレイラーが載っています。



・・・圧倒されました。これまで「Planet Earth」や「The Blue Planet」、そしてデイビッド・アッテンボローのナレーションで知られる数々の自然番組を発表してきたBBCのNatural History Unitが中心になって制作した番組だと聞いたので、質の高いものだろうとは思っていました。でもこれは、いくつかの短いクリップを見ただけでも、単純に「自然番組」と呼んで終わりにできる番組ではないと感じました。

このシリーズは、自然そのものというよりも「極限の環境における人々の営み」を、取材対象とする人々に寄り添いながら記録したものです。雄大な風景や動植物などをテーマにした番組は、美しいし、時に自然の世界の厳しさを感じさせてくれます。そうした場所を旅したり探検したりする人を主人公に据えた番組というのも、彼・彼女とともに旅・探検をしているような気分になれて楽しめます。でも「Human Planet」のlクリップを見てまず感じたのは、そうした自然の掟が支配し、探検の対象となるような場所で過酷な環境に対峙しながら命をつなぐ人々の「気高さ」もようなものでした。映像の美しさもさることながら、このアプローチ、この視線は、これまでに自分が映画やテレビ番組で見たことのないものです。番組の全編を見たい!と強く思わずにはいられませんでした。

最後にもう一つ、BBCがユーチューブにあげているこの番組の短い動画を紹介します。干満の差が激しいカナダの氷の海で、潮が引いた時に海氷に穴を開けてその下の海底に潜り込み、貝を採るイヌイットの人々の映像です。是非、こちらもご覧になってみて下さい。




<参考>
BBCの「Human Planet」ページ:
 http://www.bbc.co.uk/nature/humanplanetexplorer/
  ※このサイトの動画は日本からでは見られないはずです。

2011年3月3日木曜日

読書ノート「パタゴニアを行く-世界でもっとも美しい大地」

南米大陸の先端部、南緯40度以南に位置するパタゴニア。国でいうとチリとアルゼンチンに属しています。この本は、チリ側のパタゴニアに移り住んだ写真家が、パタゴニアの暮らしと旅の模様を綴ったものです。

カラー版 パタゴニアを行く―世界でもっとも美しい大地 (中公新書)
カラー版 パタゴニアを行く―世界でもっとも美しい大地 (中公新書)野村 哲也

中央公論新社 2011-01
売り上げランキング : 5702


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

写真と時に詩的な文章のバランスがすごく良いな、また、現地に住んでいるからこそ可能な視点や人とのつながりを最大限に生かして書かれた本だな、というのが、まず感じたことです。最近は段々と年を取ってきたせいか、旅行記などを読んでも以前ほど響かなくなっていたのですが、久々に「すぐにでも旅行に出たい」という気持ちになりました。パタゴニアは、ブルース・チャトウィンや椎名誠さんのエッセイで、また高品質なアウトドア衣料品を扱う会社の名前として、大分と前から気になる存在ではあったのですが、この本を読んで、自分の中ではっきりと「是非とも訪れてみたい場所」になりました。

読み返してみて特に印象的だったのが、著者が先住民族の人との交流の中で聞いた言葉を記している箇所でした。

「大地が人間に属しているのではなく、人間が大地に属しているのだよ」(マプーチェ族のセルマ婆ちゃんによる言葉)

「一人ぼっちで闇の中に放り出されたとき、大切なのは焦らずに、まず心に大きな白地図を描くこと。そこに知識をひとつずつ当てはめていく。そして自分の思った方角の闇へ、一気に漕ぎ出す。ありったけのエネルギーをつぎ込んで。絶対にその先に自分の場所がある、と信じてイメージするんだ。もしそのイメージが崩れたら、きっと遭難してしまうだろう。信じること。そこにあることをただまっすぐ、信じるんだ。」(海洋民族カワスカル族の一員で、カヌーの伝統航海術を知るリンチェさんの言葉)

こんな言葉を読んでいると、アラスカで先住民と交流を深めた星野道夫さんの著作が思い出されました。極北と、極南。遠く離れた場所から同じ雰囲気が漂ってくるのは、きっと、偶然ではないのだろうなと思います。